なんでもマルチメディア(657):最先端の光通信技術

NTTが発行している技術雑誌「NTT技術ジャーナル」の2012年12月号に素晴らしい研究成果の速報が掲載されました。52.4kmの距離で、1本の光ファイバーで1ペタビット/秒の超高速伝送に成功して、世界最高記録を実現したということです。

 1ペタは1ギガ(G)の100万倍です。第4世代携帯電話サービスが1Gビット/秒の壁を乗り越えられるかどうかで大騒ぎしていることと対比すると、異次元の世界のことのようです。この記事を引用すると「毎秒1ペタビットという数値は、2時間のハイビジョン映像5,000本を1秒間で伝送可能な速度に相当」ということです。

 この実験システムは、①新しい構造の光ファイバーケーブルを開発した、②以前から将来の高速光通信技術として注目されてきたコヒーレント伝送技術を用いた、③光信号の伝送効率を改善した、といったいくつかの重要な技術を組み合わせたということです。

 ノーベル賞の受賞で話題になっているiPS細胞の発明のような新技術の発明ではないかもしれませんが、複数の技術の組み合わせ相乗効果で画期的なことを実現するのは簡単ではありません。

 インターネット上の動画流通によるトラフィック量が爆発的に増えている現状を見ると、この新しい技術が救世主になる可能性を感じます。

都丸敬介(2012年12月9日)

なんでもマルチメディア(656):ウインドウズ8

10月25日にマイクロソフト社がパソコン用の新しいOS(オペレーティング・システム)のウィンドウズ8(Win8)を発売しました。当日パソコンショップでグレードアップ版を購入して、手元にあったウインドウズXPをWin8に改造しました。改造の目的は、指導をしているシニアパソコン教室の受講者に正確な情報を提供することです。

 Win8の最大の特徴は、ユーザー・インタフェースとして、スマートフォンで使われているのと同じ、指で操作するタブレット画面を導入したことです。このことばかりが大きく報道されているために、既存のパソコンをWin8に改造すると、全ての操作を既存のマウスではなく指で行うようになると思っている人が少なくありません。

 既存のパソコンのディスプレイには指で操作するタブレット機能がないので、Win8に改造しても従来と同じようにマウスとキーボードを使います。この場合の各種のAP(アプリケーション・プログラム)の操作方法は従来と変わりません。
 Win8パソコンを起動したときにはタブレット画面が現れますが、従来のAPを起動するとマウス操作画面になります。

 起動時の画面を見ていると、Win8はウインドウズ・パソコンとスマホを合体した複合端末を実現したということがよく分かりますが、スマホのアプリケーションにはあまり関心がないパソコンユーザーに不安と混乱を与えないために、ウインドウズ7と同じように使えるということも、分かりやすく説明する必要があります。

都丸敬介(2012年10月29日)

なんでもマルチメディア(655):カナディアン・ロッキーの風景

 

長く続いた連日の猛暑がようやく収まってきました。猛暑から逃げ出したわけではありませんが、8月下旬にカナディアン・ロッキーに行ってきました。複数の国立公園にまたがって南北に連なるカナディアン・ロッキーの観光の拠点は、南のバンフと北のジャスパーです。

 


 以前行ったときはバンフに滞在して、日帰りで行ける範囲を大いに楽しみました。けれども、一度はジャスパーに行きたいという想いがあったので、今回は山が好きでカナダに渡り、バンフでガイドの仕事をしている日本人の運転で、ジャスパーへの1泊旅行を楽しみました。車は北米生産のトヨタで、日本では売られていないということです。

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 バンフを離れてしばらくすると、バンフとジャスパーをつなぐ山岳観光道路”アイスフィールド・パークウエイに入ります。この道路の長さは約250kmで、交通信号は1つもありません。そのかわり、動物用の立派な道路横断ブリッジがあります。

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 カナディアン・ロッキーは海底が隆起してできた岩山の山脈です。標高2,000mほどの森林限界の上に、2,500mから3,000m級の多数の岩山が連なっています。積み重なった岩の層がはっきり見えます。828日の夜には山に雪が降り、岩の層が一層はっきりと見えました。

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 森林の樹は、大部分がまっすぐに伸びた松です。幹の太さが20cm程度で、樹齢は100年くらいなので、断面を見ても木目が分からないということです。世界自然遺産の名にふさわしい雄大で美しい風景でした。

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都丸敬介(2012929)


なんでもマルチメディア(654):ビッグデータの活用例


ネットワーク接続された多数のセンサーで自動的に収集した大量のデータ(ビッグデータ)を分析する技術の開発が活発になり、成果が出始めています。その一例として興味深い記事が、今日(2012821)の日経産業新聞に掲載されています。


 内容は、日立が開発した「ビジネス顕微鏡」という人間関係解析サービスを使って、2つのコールセンターで行った、社員の行動と営業成績との相関関係の分析結果です。

 


 ビッグデータの自動収集・分析システムがなかった時代から、人の行動を観察して集めたデータの中から規則性や特定の現象を見つける研究が行われていましたが、この時代と現在のビッグデータ収集・分析技術は比較できないほど大きな飛躍があります。

 


 ビッグデータの収集・分析は天気予報や地震観測などの特定の専門分野が先行しましたが、今では普通の企業の日常的な業務の改善に利用できる段階になってきました。

 


ネットワーク接続されたセンサーを使ってリアルタイムでデータを収集するシステムは、遠隔監視などの分野で使われていますが、大部分は特定のデータの収集に限られています。1つのデータを他のデータと組み合わせて、その間にある関連性を見出して活用することは、多くの人の日常生活にも反映されます。一人住まいの高齢者が増えている社会が抱えている問題の改善にもビッグデータ技術は役立つはずです。

 


都丸敬介(2012年8月21)

なんでもマルチメディア(653):コアネットワークの大改革

 

情報通信ネットワークの基盤部分はアクセスネットワークとコアネットワークの階層構造になっています。アクセスネットワークはユーザー端末を始めとする情報通信機器をアクセスノードにつなぐ部分です。主なアクセスノードとして、固定電話網の市内交換機、携帯電話網の無線基地局、LANの無線ルーターなどがあります。


 1990年代後半からアクセスネットワークの高速・広帯域化が進み、ブロードバンド回線ユーザーと動画配信のようなブロードバンドサービスが爆発的に増えた結果、コアネットワークに流れるデータ量が大幅に増大して、いろいろな問題が顕在化してきました。


アクセスネットワークの高速・広帯域化と並行して、コアネットワークの高速化や効率的なデータ流通の研究が世界各国で活発に行われてきました。最近の論文を見ていると、コアネットワークの大規模改革が始まる気配を感じます。

 


コアネットワークは複数の機能層を積み重ねた複雑な階層構造になっています。その背景には、長い年月の間に次々に実用化された技術を組み合わせてきた経緯があります。新しいコアネットワークの実現方法として、階層数を減らしてすっきりした構造のアーキテクチャーが示されています。

 


こうしたことの実現には、長い期間と巨大な投資が必要になると思われますが、いつごろ、どのようなコアネットワークが出現するのか楽しみです。

 


都丸敬介(2012731)


なんでもマルチメディア(652):新世代のテレビ

 テレビジョン放送のディジタル化が終わり、テレビ受像機の販売不振が深刻な状態に入ったことが報じられています。こうした状態から脱却して、日本のテレビジョン産業を活性化するために、以前から研究されてきた技術の実用化や、複数の技術の融合が活発になってきました。

 その一つがテレビとインターネットの融合です。テレビとインターネットの機能融合は、断片的にはすでに実現していますが、家庭で日常的に利用するのに適した、総合的な情報メディアとしてのビジョンは見えません。

 私が今使っているパソコンの一台にはテレビジョン放送の受信機能が組み込まれています。パソコン本来のデータ処理をしながらバックグラウンドの放送を聴くことができるのは便利ですが、既存のテレビ受像機とくらべて操作性が著しく劣ります。洗練された既存のテレビ受像機のリモコン操作に慣れている多くの人たちにとって、パソコンでテレビを視聴する操作は非常にハードルが高いと思われます。

 間もなく始まるロンドンオリンピックでは、電波に乗らないテレビジョン放送番組がインターネットで流されるということです。これは歓迎すべき画期的なことですが、テレビ視聴者の大部分が楽しめないことは残念です。メディアの融合すなわち”マルチメディア”をどのように実現するのかということが改めて問われています。

 

都丸敬介(2012620)

なんでもマルチメディア(651):IPv6普及の兆候

 

今日(2012521)の日経産業新聞に”IPv6来月移行 日本勢書き込み対応”という見出しの記事がありました。米国でインターネットの商用サービスが始まった1980年代末に、すでにIPv4(インターネット・プロトコル第4版)の規格では、いずれアドレスが足りなくなることが指摘され、その対策として、1990年代にIPv6の規格が作られました。IPv6の最大の特徴は、識別できるIPアドレス数がIPv42進数32桁(32ビット)から128桁(128ビット)に大幅に拡大されたことです。

 


 しかし、IPv6の規格制定から15年たった今でも、IPv6の普及は遅々として進んでいません。このことの背景には、アドレスマスクやプライベートアドレスといった、IPv4の使い方の工夫によるIPv4アドレスの延命策が効果をあげてきたことがあります。これらの延命策も、近年のインターネットやIPネットワークの急速な拡大に対応しきれなくなってきたために、IPv6の普及に本腰が入ってきたといえるでしょう。

 


 けれども、冒頭の記事で取り上げられたIPv6への移行はインターネット接続事業者(ISP)の対応であって、一般ユーザーが使う情報通信機器のIPアドレスが一斉にIPv4からIPv6に切り替わるということではありません。

 


 無尽蔵といえるIPv6アドレスを莫大な数のセンサーに固定的に割り当てることの効果は以前から注目されています。ISPIPv6一斉導入を契機にして、新しい産業や生活の形態が実現する可能性が大きくなりました。これからの展開が楽しみです。

 


都丸敬介(2012521)


なんでもマルチメディア(650):個人記録の保管と再生

 

インターネット関連事業者の多くが個人の写真や文書を保管するサービスを提供しています。デジカメの普及に関連して、大量の写真を保存しあるいはアルバムとして整理するサービスメニューが、クラウドコンピューティング・サービスの一環として増えています。こうしたサービスは利用者にとって便利ですが、保存と管理を委託した人たちが、貴重な個人の記録を30年後、50年後に再生できるかどうか疑問です。

 


 私は2006年からシニア世代の人たちを対象にしてパソコンの使い方の指導をしていますが、受講者の人たちが最も感激するテーマは、スキャナーを使って古い写真をパソコンに取り込んで再生させることです。小学校時代の集合写真や、名刺判の色あせた小さな写真を再生して、当時のことを思い出し、涙ぐむ受講者が少なくありません。

 


 デジカメで写した写真のデータをきちんと保存してあれが、変色による画質の劣化が起こらないし、部分拡大も簡単にできます。けれども、データを預けたサービス事業者が30年後、50年後に同じサービスを続けている保証はありません。大切なデータは個人で保存し、適切に管理することが望ましいといえます。

 


 しかし、個人で保存、管理しているデータをいつでも再生できるようにしておくことは簡単ではありません。わずか10年前にフロッピーディスクに保存したデータを再生できない人が沢山います。高齢化が進んだ社会では50年前の個人的な写真や文書を再生することの効果が大きくなっています。このような分野にどう取り組めばよいかということは大切なテーマです。

 


都丸敬介(2012515)


なんでもマルチメディア(649):電力の流通

 

このところ毎日のように、関西電力の停止中の原発の再稼動の是非がテレビや新聞の話題になっています。問題の発端は、「今年の夏の電力需要のピーク時に関西電力管内で電力不足状態が生じる恐れがあるので、原発を再稼動しないと計画停電を考えなければならない。計画停電を防ぐためには原発の再稼動が必要だ」ということです。


 これに対して、原発再稼動に反対する側の具体的な根拠は、「全国の電力会社の総発電量は、総消費量よりも大きいから、余剰電力を関西電力に融通すればよい」ということです。

 


 昨年の夏、首都圏で長期間の計画停電が行われたとき、西日本の電力会社の余剰電力を首都圏(東日本)に融通できない技術的な理由として、「西日本と東日本では交流電力の周波数が異なる。境界に設置されている周波数変換設備は容量が足りないので、西日本の余剰電力を十分に東日本に供給できない」という説明がありました。

 


 今回の原発再稼動の是非に関連する重要なことですが、余剰電力をもっている電力会社から関西電力に必要量の電力を供給できるのかできないのかという説明がまったくありません。原発の再稼動が関西電力管内の大規模停電を防ぐための唯一の手段なのかどうか、技術的に納得できる説明が求められます。また、交流電力周波数が異なる東日本と西日本の間の電力流通をどのように実施するのかという説明も求められます。これは大きな時間とコストがかかる、国の重要なエネルギー政策の一つです。

 


都丸敬介(2012425)