なんでもマルチメディア(576):大統領選挙とインターネット

今日(2008115日)米国の大統領選挙で、次の大統領に民主党のオバマ氏が当

選しました。この選挙について連日行われた報道の中で、オバマ陣営が行ったイン

ターネットの効果的な利用方法が目に付きました。動画配信サービスYouTubeを積極

的に使って情報を流し続けたことや、献金サイトで巨額の選挙資金を集めたことは、

歴史に残る新しい選挙活動手法の導入といえるでしょう。

 この選挙を取り上げたテレビ番組の中で、オバマ陣営にはインターネットの活用方

法について、優秀なスタッフがいるのだろうという解説がありました。この解説を聞

いて1990年代のクリントン大統領時代の重要な政策の一つを思い出しました。

 199610月に民主党のクリントン大統領とゴア副大統領が「NGI(次世代インター

ネット)イニシアティブ」という計画を発表しました。これは第2世代インターネッ

ト技術開発プロジェクトで、高速IPネットワークの構築と、これを利用するアプリ

ケーションの開発がおもなテーマでした。そして、政府主導のNGIと、多数の大学に

よるI2(インターネット2)という二つのプロジェクトが実施されました。

 その後、ゴア氏は現大統領のブッシュ氏との大統領選挙で敗れましたが、NGIプロ

ジェクトを推進したことが、オバマ氏の勝利につながったように思えます。

都丸敬介(2008.11.5

なんでもマルチメディア(575):技術者の再教育

米国の金融破綻をきっかけにして始まった世界的な経済の不安定化が情報通信産業

にも大きな影響をもたらし始めました。20年前に日本でバブル経済がはじけたとき

に、それまで順調に拡大してきたソフトウエア産業で、多くの従事者が職を失いまし

た。このとき目立ったのがCOBOLを使ってプログラムを作っていたソフトウエア技術

者の失職です。

 今回は企業情報システムの開発や構築に従事しているシステム・エンジニア(SE

の職場が大幅に収縮する気配があると指摘されています。

 COBOL技術者を中心とするソフトウエア技術者が大量に余ったとき、当時の通商産

業省は情報処理技術者全体の育成計画を見直しました。その結果がどの程度の実を結

んだかという客観的な評価は難しいでしょうが、いつのまにかソフトウエア技術者が

余っているという話はなくなりました。

 これからSEが仕事をする場が急速に収縮するならば、身につけた技術を生かせる新

しい職場を探すかあるいは創出しなければなりません。幸いなことに、2 0年前と比

較して情報通信システムの規模が大幅に拡大し、複雑化してきたことを考えると、優

れた技術者が働く場は十分にあるように思えます。ただし、新しい仕事につくために

は組織的な再教育と本人の学習努力が必要です。

 私は現役を引退して10年以上たちましたが、今でも企業の技術者育成の手伝いを頼

まれています。そこで感じていることは、実際のシステムを事例にして体系的に解説

することの大切さです。

都丸敬介(2008.10.27

なんでもマルチメディア(574):そばの季節

新そばの時期になりました。そばというと信州そばが有名ですが、福島県の会津地

方もそばの名産地です。先週、知人に案内されて、会津山都そばを味わってきまし

た。山都はラーメンで有名なJR磐越西線喜多方の隣の駅です。駅の近くに「飯豊とそ

ばの里センター」があり、そば粉をはじめとするそば打ちに必要な器具を売っている

だけでなく、そば打ちの体験ができます。直径40cmほどの石臼に17万円の定価がつて

いるのには驚きました。

 今回は山都のそば屋でそば会席をご馳走になりましたが、山都から車で30分ほどの

飯豊山の麓にある宮古には珍しい水そばがあります。宮古は山間の小さな部落で、十

数軒の農家が座敷でそばを提供しています。水そばは椀に入れた水にそばをつけて食

べます。この水は地元の名水です。そば以外の味が一切ないので、そば本来の味と食

感が直接伝わってきます。

 以前、宮古で水そばを賞味したときには感激しました。そば屋のおばあさんが、辛

みをつけるとまた違った味になるからと言って、裏の畑から辛み大根をとってきて、

すり下ろしてくれました。このときの味も忘れられません。

 地図で見ると山都や宮古はかなり遠い場所に見えますが、東京から日帰りできま

す。新幹線に乗って、一杯のそばを食べに行くことは最高の贅沢かもしれませんが、

そこでしか味わえないという価値があります。

 これから会津地方ではあちこちで大規模の新そば祭りが始まります。静かな水そば

と賑やかな新そば祭り。どちらも楽しめます。

都丸敬介(2008.10.19

なんでもマルチメディア(573):ケータイのガラパゴス化

しばらく前から、日本の携帯電話産業のガラパゴス化という言葉が使われるように

なり、テレビや新聞でも取り上げられています。南米大陸から900km離れた太平洋上

のガラパゴス群島で独自の進化をとげてきた固有種動物が絶滅の危機に瀕しているこ

とにたとえて、日本の携帯電話産業が、国際的な市場で北欧や韓国のメーカーに負け

ている原因が、日本国内独自の規格や技術にあると指摘しているのです。

 このような状態が続くと、日本の携帯電話産業は絶滅の危機を迎えるという警告な

のでしょうが、先端技術産業の進歩とガラパゴス諸島の動物の進化は明らかに違いま

す。最近見たテレビ番組の中で、「ヨーロッパではどの国に行っても同じ携帯電話機

を使って通信ができるのに、日本にくると使えないと」いう事例を引用して、ガラパ

ゴス化現象を説明していました。限られた時間のなかでの解説としてはやむを得ない

ことかもしれませんが、この説明は誤解を招く内容です。

 規格が異なる方式の情報通信システム間の相互接続は、100年以上も前からある問

題であり、この問題を解決する基本的な手段として技術の国際標準化が行われてきま

した。初期の国際標準化活動の目標は単一規格の制定でしたが、1990年代以降は複数

の規格の間の相互接続技術が急速に進歩しました。携帯電話のような先端的な技術分

野では、もはやガラパゴス化現象による製品あるいはシステムの絶滅は考えられませ

ん。これからも日本の企業は世界をリードする気概をもって先端的な技術の開発に取

り組むことを期待します。

都丸敬介(2008.10.7

なんでもマルチメディア(572):合成写真

このコラムの569回で合成写真を作るための写真の切り抜きのことを書きました。定年退職後に絵画教室でシニアライフを楽しんでいる人や、デジカメで写真を撮りまくっている人がたくさんいますが、合成写真を作って楽しんでいる人は比較的少ないようです。

 パソコンで合成写真を作るのは難しそうだと思っている人が少なくありませんが、それほど難しいことではありません。パソコンでは合成する個々の素材の大きさや色彩の変更が簡単にでき、素材の組み合わせや配置を手早く自由に変えることができるので、作業の基本がわかると、比較的簡単にいろいろな作品を作ることができます。

 添付した合成写真の「ケシの園」はパリの北西ジヴェルニーにあるクロード・モネの庭園です。ノルウェーの老人が何を話し合っているのか、パソコン教室の受講者の人たちがストーリーを考えてくれています。

 「瞑想」の仏塔は、カトマンズのお寺の境内に雑然とおかれていた寄進物の一つです。高さが1mほどの小さなもので、目立つものではありませんでしたが、これだけを切り抜いたところ立派な姿になりました。曼珠沙華は今月自宅の庭に咲いたものです。


keshinosono.jpg ハンドレッドクラブの皆さんはいろいろな場所で写した写真を持っていることと思います。眠っている写真を素材にして新しい夢を創造することをおすすめします。細かい切り抜きは身体の老化防止に役立つようです。

 

 


meisou.jpg都丸敬介(
2008.9.29

なんでもマルチメディア(571):有効期限

2008914日に全日空の国内線発券システムで障害が発生して、合計63便が欠航するという大きなトラブルがありました。18日に発表された障害の原因説明によると、発券端末の起動時に端末の正当性を確認する端末管理用サーバーの有効期限が切れたのに気がつかなかったためだということです。

 新聞やインターネット上の解説記事ではトラブルの原因の詳しいことがわかりませんが、システム運用部門とシステム提供者の両方に初歩的な問題意識の欠如があったと考えられます。情報システムの安全性を維持するためにユーザーのパスワードに有効期限を設けることや、不正使用を防ぐためにレンタルあるいはリースシステムに使用期限を設けることが一般的におこなわれています。

 定期的にユーザーのパスワードを変更することを義務づけている情報システムの多くは、使っているパスワードの有効期限切れが近づくと自動的に警告がでます。また、ユーザーに対して定期的なパスワード変更を義務づけるようなシステムの運用担当者は、自動的に警告が出るか出ないかということをシステム導入時に確認するのが常識です。システム提供者にはこうした機能の有無を説明する責任があります。

 私たちの身の回りにも、運転免許証や保険契約、クレジットカードなど、有効期限が設定されていることがいろいろあります。全日空は有効期限が設定されている全機能を9月末までに調査するということですが、私たちも気をつけなければなりません。

都丸敬介(2008.9.21

なんでもマルチメディア(570):ミニノートパソコン

最近、大きさが通常のノート型パソコンの半分以下のミニノートパソコンがよく売れているようです。私の手元にあるものは、ミニノートブームのきっかけになった、台湾のアスーステックのEee PC 701です。大きさは、幅22.5cm、奥行き16.5cm、厚さが最大3.5cmで、重量は970グラムです。OSはウインドウズXPです。ワープロや表計算などの一般的なアプリケーション・プログラムは付いていませんが、メールの送受信やインターネットの情報閲覧、および写真の簡単な修正や印刷ができるソフトウエアは入っていました。

 私はこのパソコンが発売されてまもなく、パソコンショップの店頭で、45千円で買ってきて重宝しています。現在市販されているのは性能が改善されたEee PC 901です。701よりもディスプレイ画面が大きくなり、内蔵メモリーの容量が増えた分だけ高額になりましたが、それでも6万円以下です。現在はアスーステック以外の複数社の同様な製品が市販されています。

 このような小さくて軽い製品を実現するにはいろいろな工夫が必要です。このパソコンにはハードディスク・メモリーがありません。その代わりに、デジタルカメラで使っているのと同じ、大容量のフラッシュ・メモリーを使っています。CD//DVDを読み書きするドライバーが付いていないので、新しいソフトウエアを組み込むときに困るかもしれません。ただし、ソフトウエアを組み込むときだけ外付けのCD//DVDドライバーをつなぐか、あるいはインターネットを経由して、必要なソフトウエアをダウンロードすればこの問題は解決できます。

 最近は標準的なノート型パソコンの価格も安くなりました。こうした中で国産ブランドのパソコンメーカーが生き残ることの難しさを感じています。

都丸敬介(2008.9.15

なんでもマルチメディア(569):切り抜き写真

 


kirinuki.jpg最近、写真の切り抜きにのめりこんでいます。切り抜きといっても、印画紙にプリントしたものをはさみで切り抜くのではなく、パソコンの画面での切り抜きです。

 これを始めたきっかけは、講師を務めている高齢者パソコン教室で写真の合成を学習テーマに取り上げたことです。合成写真を作るときは、合成する写真を切り抜く作業が必要です。このために、合成写真を作るのに使うソフトウエアには、切り抜きのための機能がいくつか用意されています。輪郭がはっきりしていて、比較的単純な形状の画像は簡単に切り抜くことができますが、それでも、思うようにならずに苦労している受講者がいます。

 わかりやすいテキストを作り、実習に適した教材写真を探しながら、いろいろな写真の切り抜きをしている間に、一つ一つの切り抜きが持つ面白さに気を取られるようになりました。

 添付したスライドの右上と左上の花は、庭にたくさん咲いている小さな花です。たくさん咲いている花を全体として見て「きれいだな」と感じていたものが、1つだけを切り出すことによって、違った感じになります。中央の花は、家の近くにある寺の杉林の薄暗い場所に咲いていた花です。左下の像はインドで買ってきた、高さ45cmの彫刻の一部です、右下の人形はノルウェーで買ってきたものです。それぞれに、元の写真では周りの色や雰囲気に埋没していた表情が生き生きと浮かび上がってきました。

 複雑な形状の切り抜きには数時間かかります。長い時間、気持ちを集中して手先を動かすことは心身の老化防止に大きな効果があるようです。

都丸敬介(2008.9.8

なんでもマルチメディア(568):記憶に残るホテル(2)

海外旅行のアルバムを見ていると、泊まったホテルのことを昨日の出来事のように思い出すことがあります。はっきり思い出すホテルに共通しているのは、その場所にマッチした特徴を備えていることです。

 


hotelofbrest.jpg フランスのブルターニュ地方にあるフランステレコムのラニオン研究所を訪問したときに、フランステレコムが手配してくれたのが港町ブレストの個人経営の小さなホテル(写真)です。到着したときに、気に入った部屋を選びなさいといって、いくつかの部屋を案内してくれました。翌朝、早い時間の列車に乗るというと、夕食後に翌日の朝食を部屋に運んできて、タクシーを手配しておいたから、裏口から黙って出ていくようにとのことでした。この気配りには感激しました。

 1972年にミラノで開かれた国際会議に参加したとき、週末の休日を利用して、スイスのツェルマットにマッターホルンを見に行きました。ミラノを朝出発した列車がシンプロン・トンネルを通ってスイスに入り、一度乗り換えてツェルマットについたときには午後3時を過ぎていました。駅の近くの喫茶店の従業員に紹介してもらった宿は、家族経営の小さなペンションでした。日本人が泊まるのは初めてだということで、好奇心が旺盛な10歳くらいの男の子がつききりで話しかけ、町を案内してくれました。

 このときは、夕方のわずかな時間しかマッターホルンが見えませんでしたが、2001年にツェルマットに数泊したときは、毎日部屋のテラスからマッターホルンを眺めて堪能しました(写真)。

 

 

 


mattahorn.jpg都丸敬介(
2008.9.1

なんでもマルチメディア(567):電子番組ガイド

視聴できるテレビジョンのチャンネル数が30〜50程度になると、見たい番組を探すのが難しくなります。そこで、テレビ受像機やインターネット接続したパソコンに番組を表示するEPG(電子番組ガイド)が1990年代後半に生まれましたが、これを日常的に利用している人はあまり多くないようです。

 NGN(次世代ネットワーク)のようなブロードバンド情報流通基盤が普及すると、視聴できるチャンネル数がさらに増えるだけでなく、VoD(ビデオ・オン・デマンド)サービスで視聴できる番組数が飛躍的に多くなります。こうした潮流に対応する新しいEPGの開発が活発になってきました。

インターネットの世界ですぐれたキーワード検索技術を武器にしたグーグルが飛躍的な発展を遂げたように、次世代EPGの分野では、キーワード検索と画像コンテンツ検索を組み合わせた、すぐれた視聴ガイドサービスを実現する企業の成功が考えられます。

 公表されている最近のEPG技術やサービスの内容からは、まだ画期的な発想やその実現手段を裏付ける要素技術が見えません。画像コンテンツを検索する技術の国際標準にMPEG-7という規格がありますが、この技術だけでは次世代EPGを実現できそうもありません。近い将来、何が起こり、どのような評価を得るのか、興味深いことです。

都丸敬介(2008.8.25