なんでもマルチメディア(562):学ぶ楽しさ

現役を引退してから長い年月が経ちましたが、今でもときどき頼まれて、若い技術者を対象とするセミナーで講義をしています。2日間で12時間の集中講義が終わると、どっと疲れが出ますが、気分はさわやかになります。過日、休憩時間に若い受講者と雑談をしていて、その人のお祖父さんと私が同年代だということが分かりました。

 2世代分の年齢差がある若い人に最先端の話をしていて年齢差を感じないのは奇妙なことかもしれませんが、現在の新技術や新製品が、20年〜30年の時間を経て今の状態に到達した経緯を知ることは、若い人たちに新鮮な刺激を与えるようです。そして、技術進歩の過程を体系的に把握することが、今後の発展のビジョンを描くのに役立つことを理解できるようです。

 こうした話をするためには、講師としても現在起こっていることを学習しなければなりません。インターネットが発達したおかげで、図書館に行ったりセミナーに参加したりすることなしに、欲しい情報を世界中から即時に入手できるようになりました。忙しい現役の技術者に代わって情報を集めて整理しているのだと考えると、情報収集に力が入ります。

 現役の技術者を対象とするセミナーではありませんが、シニア世代のパソコン教室で講義をするためにも、常に新しい情報を集めて分析しています。このために、パソコンショップに足を運ぶことが多くなりました。パソコンショップの中を歩き回っていると、現在のIT産業の動向がよく分かります。また、製品の説明書に書いてない使い方を見つけると楽しさが広がります。

都丸敬介(2008.7.13

なんでもマルチメディア(560):ビル・ゲイツの引退

マイクロソフト社の創業者で世界一の富豪になったビル・ゲイツが52才の若さで事業の第一線から引退したことが大きな話題になりました。この見事な引き際を産業界のリーダーだけでなく政治家にも見習って欲しいと感じている人が多いことと思います。

 ゲイツは天才プログラマーといわれていますが、技術力ではゲイツと同程度あるいはそれ以上の人たちが少なくありません。ゲイツが突出したのはビジネスの着眼点とそれを実行する行動力にあったことが指摘されています。

 マイクロソフトが1990年代に大きく飛躍した原動力は、すべてのパソコンに必要なオペレーティング・システムとして、ウインドウズの開発と販売の成功したことです。ウインドウズの開発のすさまじい状況が、「闘うプログラマー:ビル・ゲイツの野望を担った男たち(G・パスカリ・ザカリー著、日経BP出版センター発行、1994年)」という本に詳しく描かれています。

 昨年発売されたウインドウズ・ビスタは今後も使い続けられるでしょうが、アプリケーション・プログラムにはいろいろ問題があります。看板商品のワード2007やエクセル2007の使いにくさを補完するプログラムを他社が開発して売っているという事実をマイクロソフトはどう受け止めているのでしょうか。

ゲイツの引退は情報産業の地殻変動のきっかけになるように思えます。

都丸敬介(2008.6.30

なんでもマルチメディア(559):新聞を読んで

毎週一回、NHKラジオ第一放送に「新聞を読んで」という番組があります。毎回替わる解説者が、一週間分の数種類の全国紙新聞を読んで、注目した記事の要点や感想を解説する番組です。放送やインターネットが発達した影響で新聞の購読者が減り続けているようですが、新聞には他のメディアとは違った長所があります。私は数種類の新聞を定期購読していますが、その最大の理由は、多面的なキーワードが飛び込んでくるからです。

 今朝(2008623)の朝日新聞に「学士の質 どう保証」という見出しで、大学全入時代になって低下してきた大学卒業者の資質について、中央教育審議会と経済産業省の取り組みを解説しています。中央教育審議会が検討している「学士力」指針項目の定着に期待しますが、どのようにして実現するのかということが大きな課題です。

 同じ新聞の「簡単・でか字の高齢者向けPC」という記事で、富士通が高齢者層をターゲットにして発売したパソコンの特徴やアフターサービスが紹介されています。パソコンの普及率が飽和状態になった現在、1千万の潜在需要があると推定されている高齢者層はメーカーにとって重要な市場でしょう。ただし、この市場を掘り起こすには、パソコンの基本的な操作方法を見直す必要があります。高齢者パソコン教室で指導をしていると、既存のパソコンの基本的な操作のいくつかが、重大な障壁になっていることが分かります。

都丸敬介(2008.6.23

なんでもマルチメディア(558):デジカメとパソコン

シニア世代のパソコン教室で指導をしていると、ときどき思いがけないことに気がつきます。デジカメで撮影した写真のデータをパソコンに取り込んで補正や加工をする講座では、デジカメの写真データをパソコンに取り込めるということを知らなかった人が何人かいました。

 撮影した写真のデータが一杯になったデジカメのメモリー・カードを、そのまま保存しているというのです。また、メモリー・カードのデータをパソコンにコピーして取り込めることを知っているけれども、メモリー・カードの写真データを消去できることを知らなかったということで、多数のメモリー・カードを保存している人もいます。

 そこで、パソコンに写真データをコピーした後でデータを消去すればメモリー・カードを何度でも使えるという、デジカメの基礎的なことを知らない人がいるという現実に気付きました。念のために、手元にある複数機種のデジカメの取扱説明書を調べたところ、要らなくなった写真データを消去(削除)して、メモリー・カードを何度でも使えるということの説明は皆無でした。写真データの選択的消去や全消去の方法が記載されている取扱説明書もあるので、メモリー・カードのデータを消去できることは常識だというのでしょうが、常識だと考えるのはカメラ・メーカーの独断かもしれません。

 パソコン教室では、写真屋に頼んでプリントしていた写真を、パソコンを使って自分でプリントできるようになって感激している人が少なくありません。パソコンを使って、はがきに写真を取り込んだけれども、写真の上に文字を書き込むことがうまくできないという人もいます。好奇心と新しいことに挑戦する意欲が旺盛なシニア世代の手伝いは楽しいことです。

都丸敬介(2008.6.16

なんでもマルチメディア(556):さようなら鶴丸

2008531日、垂直尾翼に丸い鶴のマークを描いたJALの旅客機が最後のフライトを行ったことがテレビや新聞で一斉に報道されました。最後のフライトは鶴丸ファンで満席になったということですが、私も鶴丸マークのJALにはいろいろの思い出があります。

 1973年にパリでIT技術の標準化会議が開かれたときに、参加者全員が会議主催者から夕食会に招かれました。会議終了後の午後8時にレストランに集まり、解散したのが午前3時という、私が体験した最も長時間の夕食会でした。私はフランス規格協会の会長夫人の隣の席を指定され、日本の文化についていろいろな質問を受けました。話題の内容は覚えていませんが、一つだけ記憶に残っていることがあります。

 折り紙の話になり、鶴の折り方を教えてあげました。何人かで鶴を折ったところ、一人の手が滑って白い紙の折り鶴に赤ワインがかかりました。そこで私が「鶴がワインを飲んで赤くなった、この鶴はJALのシンボルだ」といったことを話したところ、大いに盛り上がりました。

 1970年代初期にはまだ成田空港がなく、羽田空港を利用していました。公務の出張となると、大勢の人が空港まで見送りにきて、搭乗が始まると拍手で送られるという時代でした。その後航空機の機種や機内設備、機内サービスなどが大きく変わり、JALの垂直尾翼のマークも変わりました。鶴丸のマークが半世紀の間使われたというのは大変なことだったと思います。

都丸敬介(2008.6.2

なんでもマルチメディア ( 555 ) :技術の目利き

以前、技術移転の指導と仲介をしている企業から、技術の目利きの仕事を頼みたいという相談を受けたことがあります。時間を拘束されたくないので辞退したので、その後どうなったか知りませんが、ときどき思い出しては技術の目利きとは何だろうと考えることがあります。

 大学や公的研究機関の研究成果を企業に移転して製品化する、産学連携の話題がときどき新聞などで報道されますが、計画どおりには成果があがっていないことが多いようです。この原因の一つとして考えられることが目利きの不在です

 技術移転にはニーズ指向とシーズ指向があります。ニーズ指向では、ある製品を実現するのに必要な技術を探し出すことが出発点になります。シーズ指向では、研究成果を活かす製品分野を探すことが出発点になります。どちらの場合も、ニーズとシーズがかみ合わなければ良い結果は得られません。

 ニーズとシーズをうまくかみ合わせるために必要な、広範囲にわたる知識と冷静で客観的な判断力を身につけた人が有能な目利きといえるのでしょう。このような目利きを育てるのは容易ではないように思えます。書画、骨董の目利きを育成するには本物だけを見せることが基本だと、何かの本で読んだ記憶があります。本物だけを見せて育てると、自ずと偽物を見分ける能力が身につくということです。これだけではなく、ある程度の資質と絶え間ない学習努力がなければ、本物の目利きにはなれないでしょう。いろいろな面で転換期に入った日本の情報通信産業の発展のために、技術の目利きの育成と確保が必要だと考えます。

都丸敬介 (2008.05.26)

なんでもマルチメディア(553):動物園

上野動物園のパンダが亡くなったことが大きな話題になりました。幸いにも中国から若いパンダを借りられるようなのでよかったと思います。このニュースをテレビで見ながら、上野動物園に最初のパンダが来たときに見に行ったことを思い出しました。1時間以上も行列に並んで、歩きながらパンダを見ることができたのは数分間だけでした。

 その後上野動物園のパンダを見たことはありませんが、北京動物園には何度か行きました。北京動物園はパンダの数が多く、建物の外の広い庭に出ているので、いろいろの角度から見ることができます。北京動物園で印象に残っている動物の1つに、孫悟空のモデルになったと言われるキンシコウがあります。ふさふさとした明るい茶色の毛に覆われた大きな猿で、堂々としていました。

 バンコック郊外のワニ園では、生まれたばかりのワニから高齢のワニまでいくつかのグループに分けています。高齢のワニ(写真)はしわくちゃで艶がない顔だけを水から出していました。なにか悲哀を感じま

す。

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シドニーの動物園にはカンガルーが沢山います。柵を無視して、人が歩く道に出ている動物も少なくありません。その国に生息している動物の種類が多い国の動物園は、どこに行っても楽しいです。

都丸敬介(2008.5.12

なんでもマルチメディア(551):中国の明治維新

知人から薦められて「蔡元培」(中井威博著、里文出版)という本を読みました。これは北京大学の創設者である蔡元培の伝記ですが、個人の伝記というよりも中国近代史として興味深い内容でした。

蔡元培が生まれたのは1868年(明治元年)で亡くなったのは1940年(昭和15年)です。清朝末期に生まれて、旧制度の上級職国家公務員試験に合格し、清朝の没落後にドイツに留学。混沌とした政情の母国に戻ってから教育制度を中心とする新しい社会作りに奔走した姿は、明治維新から明治時代が確立するまでの日本によく似ています。

 1910年前後に、後の中国の指導者たちの多くがフランスに留学して大きな影響を受け、中国とフランスの密接な関係が生まれたということは、日本とドイツやイギリスとの関係に似ているように思えます。

 北京オリンピックの聖火リレーがフランスでトラブルに巻き込まれて、両国の関係がぎくしゃくしていますが、これも時代の流れでしょうか。

 この本に描かれている国家権力と学生を中心とする若い人たちとの対立の構図には大きなエネルギーを感じます。こうした状態を今の日本に重ね合わせてみると、残念ながら新しい時代を創り出す若いエネルギーが日本では感じられません。長野を含む世界各国で行われた聖火リレーの報道にみえる中国の若者たちのエネルギーと比較すると、日本の前途が心配になります。

都丸敬介(2008.4.28)

なんでもマルチメディア(537):スキャナー

新聞や雑誌の記事をスキャナーでパソコンに取り込んで整理することが、私の毎朝の日課になってから10数年たちました。パソコンに取り込んだ記事を、1件ごとにパワーポイントのスライドにして、分野別のファイルにまとめています。昨年1年間に採録した記事の数はおよそ1千件です。
調べごとをするときに、インターネットで探しても、欲しい情報がなかなか見つからないことがあります。パソコンの中にある個人的なスクラップブックは、ときにはインターネットの情報検索よりも大きな効果を発揮します。講師を頼まれたセミナーの会場で、保存してある新聞記事を見せて質問に答えたところ、このスクラップブックの作り方を教えて欲しいという要望を受けた経験があります。
永年使ってきたスキャナーの具合が悪くなったので、昨年秋に新しいものを購入しました。これはノード型パソコンと同じ大きさで軽量のものです。パソコンとスキャナーの両方を鞄に入れて持ち運びできます。
 このスキャナーは使いやすく、しかも1万円以下で買えるので、学習指導をしているシニア・パソコン教室で使い方の講座を実施しました。新聞や古い写真などの印刷物だけではなく、落ち葉や道端に咲いている花をスキャナーで直接取り込むことの実習を行ったところ、教室では面白い作品が次々に生まれました。
 後日、受講者の一人から「手袋に刺繍をしたのでスキャナーでパソコンに取り込みました。カメラで写すよりも簡単で、いい感じの写真ができました」という話がありました。いままで使われずにほこりをかぶっていた何台かのスキャナーが動き出したようです。
都丸敬介(2008.1.15)

なんでもマルチメディア(535):地球温暖化

明けましておめでとうございます。
典型的な冬型気圧配置のためか、逗子の空は青く澄み渡り、風もありません。昨年の夏は記録的な猛暑で、地球温暖化に対する関心が急上昇しました。しかし、昨年11月以降の気候は、記憶にある数十年前と同じであり、温暖化の影響は感じられません。年間平均気温のデータを調べてないので何ともいえませんが、本当に急速な温暖化が進んでいるのだろうかという疑問がわきます。
 年末にマイクル:クライトン著「恐怖の存在」(ハヤカワ文庫)という小説を読みました。地球温暖化に起因すると考えられる異常気象対策を旗印にかかげた組織が、資金集めのために、大規模の異常気象を人工的に起こそうとする環境テロが中心テーマです。このテロ計画に気付いた主人公たちが、きわどいところでテロ活動を無力化するというサスペンス小説です。描かれているテロ活動が現実に実行できるとは思えませんが、著者の着想と大量の文献や資料を調べて引用したデータは興味深い内容です。
 本のタイトル(原著はState of fear)について本文の中で著者が述べていることは、現代のリーダーたちが「恐怖」を示すことで社会を導いていることの危険性です。
 小説には珍しく、巻末に6ページにわたる「作者からのメッセージ」が掲載されています。「現在の温暖化傾向がどの程度まで自然現象であるのかは、だれにもわからない」、「現在の温暖化傾向がどの程度まで人間活動によるのかは、だれにもわからない」といった指摘に答えを出すのが科学者に与えられた重要な課題です。
都丸敬介(2008.1.1)