なんでもマルチメディア(536):PHS

今日(200717)NTTドコモがPHSサービスを終了します。PHSは日本で開発された、ディジタル・コードレス電話技術を応用した簡易型携帯電話システムで、1995年にサービスが始まりました。サービス開始直後はユーザー数が急速に増えましたが、一般的な携帯電話の普及が進むにつれて、PHSのユーザー数は減少しました。

 NTTドコモのPHSサービスが終了しても、PHSの利用がなくなるわけではありません。PHS事業者のウィルコムは伝送速度の高速化に取り組んでいて、800キロビット/秒の高速サービスの計画を発表しています。さらに、20メガビット/秒の技術開発に取り組んでいることが報じられています。PHSはサービス開始に必要な設備投資額が携帯電話よりもかなり小さいことから、数年前に中国でPHSの大量導入が始まりました。

 PHSはもともとコードレス電話から出発したシステムですから、携帯電話システムとは違った効果的な利用方法が考えられます。たとえば、通信サービスの新しい形態として注目されているFMC(固定電話と携帯電話の融合サービス)です。これは、端末の使用場所に応じて、同じ端末を固定電話網と携帯電話網のどちらかにつないで使う方法です。

 FMCの実現手段の一つとして無線LANが注目されています。第3世代あるいは第4世代の携帯電話、次世代PHS、無線LANが三つ巴になって競争し、あるいは棲み分ける時代になりました。それぞれに長所と短所があるので、今後どのように展開するのか興味があります。

都丸敬介(2008.1.7)

なんでもマルチメディア(535):地球温暖化

明けましておめでとうございます。
典型的な冬型気圧配置のためか、逗子の空は青く澄み渡り、風もありません。昨年の夏は記録的な猛暑で、地球温暖化に対する関心が急上昇しました。しかし、昨年11月以降の気候は、記憶にある数十年前と同じであり、温暖化の影響は感じられません。年間平均気温のデータを調べてないので何ともいえませんが、本当に急速な温暖化が進んでいるのだろうかという疑問がわきます。
 年末にマイクル:クライトン著「恐怖の存在」(ハヤカワ文庫)という小説を読みました。地球温暖化に起因すると考えられる異常気象対策を旗印にかかげた組織が、資金集めのために、大規模の異常気象を人工的に起こそうとする環境テロが中心テーマです。このテロ計画に気付いた主人公たちが、きわどいところでテロ活動を無力化するというサスペンス小説です。描かれているテロ活動が現実に実行できるとは思えませんが、著者の着想と大量の文献や資料を調べて引用したデータは興味深い内容です。
 本のタイトル(原著はState of fear)について本文の中で著者が述べていることは、現代のリーダーたちが「恐怖」を示すことで社会を導いていることの危険性です。
 小説には珍しく、巻末に6ページにわたる「作者からのメッセージ」が掲載されています。「現在の温暖化傾向がどの程度まで自然現象であるのかは、だれにもわからない」、「現在の温暖化傾向がどの程度まで人間活動によるのかは、だれにもわからない」といった指摘に答えを出すのが科学者に与えられた重要な課題です。
都丸敬介(2008.1.1)

なんでもマルチメディア(534):ARPUの推移

 5年ほど前、あるセミナーでNTTドコモの幹部が「現在のARPU(1ユーザー当たりの平均収入)は8千円程度であり、これを1万円にもっていくのが最大の重点課題だ」という主旨の講演をしたのを聴いたことがあります。
 最近目にした、携帯電話大手3社(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイル)のARPUの推移を見ると、各社共に2002年度から2006年度にかけてARPUの減少が続いています。2002年度には8千円を上回っていたNTTドコモのARPUは2006年度には約7千円に低下しています。KDDIの値はNTTドコモと同程度ですが、ソフトバンクモバイルの2006年度の値は6千円程度です。
 ARPUは平均値ですから、この値だけではユーザーの状況はほとんど分かりません。手元にデータがないので正確ではありませんが、1980年代中頃のNTTの電話サービスのARPUは7千円程度であり、平均値以上の使用料を払っているユーザー数が25%程度だったと記憶しています。つまり、25%のユーザーが残りの75%のユーザーを支えることで、全国的な電話サービス事業が成り立っていたということになります。
 携帯電話ユーザー数の増加が続いているけれどもARPUは低下している、そして固定電話ユーザー数の減少が続いているという状況を背景にして、情報通信サービス事業者がARPUの改善にどう取り組むのか、願望ではなく具体策に興味があります。
都丸敬介(2007.12.25)

なんでもマルチメディア(532):人体通信

今日(2007年12月9日)の日本経済新聞第1面に「人体通信 実用化へ」という見出しの記事がありました。人体を通して電気通信の信号を伝える人体通信の研究は1990年代から行われていて、2004年にはこの技術を応用した製品が発売されています。これまでに発表された人体通信技術には複数の異なる方式があり、いろいろな応用分野が考えられていますが、まだ応用製品が普及する状態にはなっていないようです。
 人体通信は人の手や体の一部が触れることでデータを伝える近距離通信です。この分野では、無線通信技術を利用するBAN(ボディ・エリア・ネットワーク)の研究開発も行われています。利用面からみた近距離無線通信と人体通信の大きな違いは、人体通信は情報漏洩の危険が非常に小さいことです。情報の送り手と受け手が握手をするだけで正確な情報が伝えられ、その内容が第3者に漏れることがないといった、スパイ小説に出てくるようなことが可能です。
 情報漏洩に対して安全だということは、外部からの通信妨害の影響を受けにくいということになります。健康の管理や維持のためのデータ収集手段として、身体に付けた超小型無線センサーを利用する技術の開発が以前から行われています。人体通信技術はこの分野で優れた機能を発揮するかもしれません。今後の研究の進展に興味があります。
都丸敬介(2007.12.9)

なんでもマルチメディア(527):光ファイバー回線

今日(2007年10月21日)の日本経済新聞第1面に「NTT光回線3000万件目標、大幅下方修正へ」という見出しの記事がありました。2010年に全国で3000万回線とした、光ファイバー通信回線の普及目標の達成が、これまでの実績では難しいという判断から、目標を下方修正する検討を始めたという内容です。
 しかし、「ブロードバンド通信サービスのユーザーが計画どおりに増えていないからだ」という説明だけでは、納得できないことがあります。ユーザーを接続するアクセス回線として光ファイバーを導入する方法の研究が、1980年代から1990年代にかけて活発に行われました。そして、老朽化した銅線のメタリック電話ケーブルを取り替えるときに、新しいメタリックケーブルを設置するのと同程度のコストで光ファイバー・ケーブルに置き換える方法が開発されました。これは、既存の固定電話だけで十分だというユーザーも含めて、一つの地域の通信回線をまとめて光ファイバー回線に置き換える方法です。
ところが、メタリック電話ケーブルを使ってブロードバンド通信サービスを実現するADSLが普及したために、一つの地域のメタリックケーブルをまとめて光ファイバーに置き換えることが難しくなったようです。NTTのメタリックケーブルを使ってADSLサービスを提供している通信事業者が困るからです。
通信ケーブルは重要なインフラ設備です。競合する通信事業者の利害が対立するので、すっきりした問題解決は難しいのかもしれませんが、互いに協力して光ファイバー回線の普及を進める時が来たといえましょう。
都丸敬介(2007.10.21)

なんでもマルチメディア(525):バイオメトリックス決済

日立製作所が社内の食堂と売店で実験を行っている、利用者の指静脈認証だけで代金を決済するシステムの利用状況が、報道陣に公開されたそうです。小切手、クレジットカード、決済機能つき携帯電話など、現金を使わない決済システムが多様化して便利さが拡大しています。
 バイオメトリックス技術の1つである静脈認証による代金決済は、新しい形態の電子マネーの1つといえます。クレジットカードの紛失や持参忘れはよくあることなので、バイオメトリックス認証だけで済む代金支払いがもたらす利便性と安全性は大きいといえます
 この代金決済システムは、既存のクレジットカード・システムと連動するために、前もってカードの口座を開設しておく必要があります。実験システムでは、クレジット機能付き社員証を持っている社員を実験参加者として選んだということです。
 一般的なユーザー認証では、ユーザー名(ユーザーID)と暗証番号(パスワード)の組合せでユーザーを特定しますが、ユーザー名と暗証番号はどちらも自由に変更できます。一方、バイオメトリックス認証では、認証用データがユーザーの身体的特徴に基づくものなので、人為的に変更することができません。したがって、原理的には、ユーザー名と暗証番号という2種類のデータを組み合わせる必要がありません。
 一般に、ユーザー認証におけるバイオメトリックス技術の役割は、パスワードの代替と考えられていますが、バイオメトリックス認証技術は従来とは異なるいろいろな応用の可能性を備えています。今後の発展を見るのが楽しみです。
都丸敬介(2007.10.8)

なんでもマルチメディア(524):Windows Vista

なんでもマルチメディア(524):Windows Vista
 普段使っているWindows XPパソコンの1台をWindows Vistaに改造しました。XPに満足しているので、Vistaに改造する積極的な理由はなかったのですが、指導をしているシニア・パソコン教室の受講者でVistaパソコンを購入した人が増えてきたことから、質問に答えるために感触をつかんでおきたいと考えたのが動機です。
 導入したVistaはHome Premiumです。既存のアプリケーション・プログラムやデータをそのまま継承するために、新規インストールではなく、アップグレードしました。継承したプログラムやデータが多かったためか、アップグレード作業に5時間かかりました。
 既存のアプリケーションやデータをほぼ完全に継承できましたが、継承できなかった機能もあります。継承できなかった機能の一つに、以前ハンドレッドクラブの会合で知り合ったワコム社の方から頂戴したペンタブレットがあります。重宝していただけに、使えなくなったのはショックです。この他に、パソコンを起動するたびに、継承できなかったことの警告が出る機能があり、これを取り除くのに苦労しました。
 発売前から大きな飛躍があると思わせるいろいろな解説が出回っていましたが、実際に使ってみるとこれは素晴らしいと感じることがほとんどありません。Windows 95、98、Meと使ってきて、XPが出たときにようやく十分な完成度に達したと実感しましたが、VistaではXPよりも不便になった機能がいくつかあります。どのような設計思想からこうなったのか分かりませんが、改造したパソコンを元のXPに戻すことができないので、我慢するしかありません。
都丸敬介(2007.9.30)

なんでもマルチメディア(523):パスワードの更新管理

以前から、企業のエンジニアを対象にするセミナーで、会社の情報ネットワークに接続されているパソコンを使うときのパスワードをどの程度の頻度で更新しているのか質問しています。5年ほど前までは、定期的なパスワード更新をしていないという人がかなり多くいましたが、最近は多くの企業が比較的短期間でパスワードの更新を実施しているようです。
 比較的多い、一般的なパスワード更新管理は、(1)パスワードの有効期間が3ヶ月から6ヶ月程度で、定期的に更新する、(2)有効期限が近づくと警告の通知があり、期限内に新しいパスワードに切り換えないと、期限切れになったとたんに情報ネットワークにアクセスできなくなる、(3)一度使ったパスワードも、4回〜6回パスワード更新をした後でまた使える、といった方法です。
 しかし、ときどき、首をひねりたくなるような話が出てくることがあります。
 Aさんの会社では、パスワードの有効期間が30日になっています。しかし、有効期限が過ぎたパスワードを使い続けることができます。その代わり、有効期限が過ぎたパスワードを使っていることが分かると、始末書を書かされるということです。
 Bさんの会社では、パスワードの有効期間が30日で、一度使ったパスワードは一年間繰り返し使用ができません。現在使っているパスワードがどれだか分からなくなるので、パソコンの近くにある紙にパスワードを書いておく人がかなりいるということです。
 Cさんの職場では、社員が不在の時に、必要に応じて責任者が不在社員のパソコンを使えるように、パスワードを上司に通知することになっているということです。
 このほかにもいろいろなことがありますが、どのようなパスワード管理をしているかという情報そのものがセキュリティ保護対象になります。
都丸敬介(2007.9.24)

なんでもマルチメディア(520):システムのトラブル対策

テレビや新聞で報じられる話題の多くは事故や不正行為に関わることです。トラブルが発生すると、事後対策の善し悪しによって危機管理能力が問われ、あるいは未然に防げなかったのかということが話題になります。
 情報通信システムの開発では、開発労力の80%程度がトラブル対策のために費やされるといわれます。80%というのは比喩的な値であり、実際の値は対象システムによって異なりますが、開発段階でトラブル対策を軽視したために大きな問題を起こした例が多くあります。
 日本の電気通信システムや電力システムでは、先駆者たちの永年の努力によって、非常に高いサービス信頼性が維持されていますが、技術の急速な進歩にともなって大きな変革が進んでいます。高いサービス信頼性を実現するための基本は故障が起こりにくくすることですが、これだけでは十分ではありません。操作ミスのような人的原因による事故に対する安全対策が不十分だと信頼性を大きく低下させます。
 機能の多様化や高度化が続いているパソコンや、インターネットサービス、各種の家電製品などを使っていると、トラブル対策についての基本的な考え方が分からないものや、提供側の論理が優先して、利用者にいろいろなことを押しつけているものが目に余ります。
 NGN(次世代ネットワーク)の実用化を始めとして、新しい情報通信システムの開発が活発になってきた今こそ、改めて利用者指向のトラブル対策の充実が求められます。
都丸敬介(2007.9.3)

なんでもマルチメディア(519):インターネット不正行為の被害額

情報漏えいや迷惑メール、DoS(サービス不能)攻撃など、インターネットを悪用する犯罪的不正行為がますますエスカレートしています。インターネットやパソコン関係の雑誌には、毎号のように、情報セキュリティ関係の記事が掲載され、セキュリティ・サービスやセキュリティ・グッズが成長産業になっています。
 ところが、インターネットを悪用する不正行為によって、どのような損失が発生し、誰がどの程度の被害を被っているのかという、具体的な解説はほとんどありません。ユーザー情報が漏えいしたクレジットカードの不正使用による被害金額や、著作権侵害になる不正コピーによる被害金額、インターネット通信販売詐欺の被害金額などが発表されることがありますが、迷惑メールやコンピューター・ウイルスによって発生する被害金額がどの程度あり、誰が被害を受けているのかということになると、さっぱり分かりません。
 経済産業省が実施している情報処理技術者試験の、平成17年度テクニカルエンジニア(ネットワーク)試験問題の一つに、コンピューター・ウイルスによって企業が被った被害額を算出したモデルが示されています。このモデルではウイルスによる被害額を、表面化被害額と潜在化被害額に分けて算出しています。
いろいろなケースについて、このような調査と分析に基づく啓蒙活動が望まれます。迷惑メールによるインターネット設備の無駄遣いが、グローバルな電力消費量の何パーセントになっているのかも気に掛かります。
都丸敬介(2007.8.26)