なんでもマルチメディア(557):通信と放送の融合

5月下旬にNHKがインターネットの動画投稿サイトのユーチューブを介してテレビ番組の配信を始めました。今のところニュースが中心ですが、インターネットと放送の融合が本格的に始まったという実感があります。URL http://jp.youtube.com/user/NHKonline です。

番組を選択すると、NHKのロゴが入った静止画面が表示されますが、番組画面の右下の「動画形式を変更する」をクリックし、「動画形式を選択する」でFlash(FLM)をクリックすると動画再生用のソフトウェアが起動して動画の表示になります。

提供されている情報には動画を含んでいないものもありますが、全体として、かなり充実した内容になっています。一般的なポータルサイトが提供しているニュースとはひと味違った印象を受けます。動画像や音声の品質も悪くありません。携帯端末にテレビ番組が配信されていることを考えれば、かなり良好なサービス品質を実現できることはあたりまえのことと言えるのでしょう。ブロードバンド情報流通基盤として国際的なNGNが運用されるようになれば、世界中のテレビ放送を視聴できることはもはや夢ではありません。

ただし制度面ではいくつか気になることがあります。冒頭のNHKonlineNHKと受信契約をしていなくても自由に見ることができます。新しい番組配信ルートがNHKその他の放送会社のビジネスモデルにどのような変化をもたらすのか、あるいは既存のビジネスモデルが、新しいルートで配信する番組の範囲を制約することになるのかといったことが不明確です。通信と放送の融合が、技術の進歩に制度改革が追いつかない新たな事例にならないことを願います。

都丸敬介(2008.6.9

なんでもマルチメディア(554):非常用通信

ミャンマーのサイクロンによる大水害、中国の四川大地震と相次いで大きな災害が発生しました。いずれの場合も、通信が途絶して初動対策が遅れたことが人命救助の遅れにつながっているようです。

 「停電のために電話もインターネットも使えない」と当たり前のように報道されていますが、こうした災害に備えた非常用通信設備がどのようなっているのかということについての報道はありません。グローバルな衛星携帯電話サービスが発達した現在では、世界中のどこでも使える、比較的安価な衛星携帯電話を非常用通信のために用意しておくことはそれほど大きな負担にはならないはずです。

非常時対策設備というと、日常的には使わずに、ときどきテストをして動作を確認するのが一般的ですが、衛星携帯電話は日常的に使うことができます。長時間停電対策として小型の発電機を用意して、定期的に動作テストをすることと燃料を準備しておくことが必要ですが、あまり大きなコストはかからないはずです。

四川省の茂県では地震発生後4日目に1台の衛星電話が設置され、一人当たり1分間の通話を待つ人が1千人近くの行列を作ったということです。写真を見るとこの衛星携帯電話はかなり高額の設備なので、何故経済的なものを使わないのかという疑問が生じます。

ミャンマーでは今回の災害対策に衛星携帯電話が活躍したかどうかわかりませんが、ミャンマー国内でも一般的な携帯電話は普及しています。しかし、情報管理のために国際通信は厳しく規制されているようです。このために、ミャンマーで仕事をしている日本人の中には日常的に衛星携帯電話を使っている人がいるようです。お国柄利用上の制約があるのかもしれませんが、海外進出している日本企業が日常的に何台かの衛星携帯電話を使っていれば、災害時に現地の支援に貢献できるかもしれません。こうしたことのガイドラインを作って、実行することを考える組織はないのでしょうか。

都丸敬介(2008.5.19

なんでもマルチメディア(552):どうなるマイクロソフト

今朝(200855日)の朝日新聞と日本経済新聞は両方とも米マイクロソフトがヤフーの買収を断念したことを第1面で大きく報じています。買収総額が約46千億円というスケールの大きい買収に失敗したことは、マイクロソフトだけでなく、これからの世界のソフトウェア産業に大きな変化をもたらす契機になりそうです。

 マイクロソフトが世界最大手のソフトウェア会社になったのは、独自開発した製品の良さよりも、企業買収戦略と販売戦略によることがよく知られています。米国のジャーナリストの一人、ウェンディ・ゴールドマン・ロームの著書「マイクロソフト帝国が裁かれる闇(草思社、199812月出版)」に、マイクロソフトのすさまじい事業戦略が手に取るように描かれています。

しかし今回仕掛けたヤフー買収の目的は、この本に記されている事業拡大戦略とはかなり違うようです。ヤフーを買収して手に入れようとしたのは巨額の広告料収入であり、ソフトウェア製品販売の拡大ではありません。昨年、マイクロソフトの基幹製品であるウィンドウズ・ヴィスタとワードやエクセルを含むオフィス2007が発売になりましたが、これらは従来の製品であるウィンドウズXPおよびオフィス2003と較べて大きく進歩したとはいえません。見た目は華やかになったけれども使いにくくなった部分が多くあります。このためか、今年発売になったパソコンはウィンドウズXPを搭載しているものがいくつもあります。また、オフィス2003との互換性が大きい低価格の製品がよく売れているようです。

 マイクロソフトの創設者であり、世界第一の富豪になったビル・ゲイツが間もなく現役を引退するようですが、これからのマイクロソフトがどうなり、ソフトウェア産業全体にどのように影響するのか注目されます。こうした大きな潮流の変化の中で、日本企業の姿がさっぱり見えないことが心配です。

都丸敬介(2008.5.5

なんでもマルチメディア(550):日本のソフトウェア産業

過日、1970年代に一緒に仕事をした仲間が百人以上集った懇親会がありました。平均年令は60才を超えていますが、大部分が情報システム開発や人材育成の仕事をしています。話を聞いていて、日本のIT産業、特にソフトウェア産業が抱えているいろいろな問題を垣間見ることができました。

 ソフトウェア産業の仕事は、パソコンやゲーム機などで動かす比較的小規模のアプリケーション・プログラムの開発、企業活動や公共サービスを支える大規模システムの構築、家電製品や産業用機器に組み込む制御用プログラムの開発など、多様化が進んでいます。それぞれの分野が抱えている問題は同じではありませんが、共通している根底の問題は、要求される開発期間が加速度的に短くなっているために、仕事の負荷が大きくなり、人材育成が間に合わないということのようです。こうしたことから、IT産業は若い人たちの人気が低下して、優れた人材が集まらないという話です。

 大規模システムの開発は大変な仕事であり、長期間にわたってほとんど休む時間がなかったことを、19601980年代に私自身が体験してきました。その時代と今を比較して何か変わったかというと、夢がなくなってきたことが大きく作用しているのではないかという感じがします。未知の課題が多い巨大なプロジェクトに取り組んでいるときは、時間を忘れてのめり込むことの楽しさを味わえます。一方、新しい挑戦課題が少なく、既存の技術の組合せの繰り返しが中心の仕事になると、楽しさが減るのかもしれません。

 IT産業の指導者は、若い人たちにたいして仕事の方法や知識を伝えるだけではなく、どのようなプロジェクトでも、それを仕上げることの喜びや楽しさを体験させる環境を作ることに力を入れる必要があります。

都丸敬介(2008.4.21)

なんでもマルチメディア(549):SaaS

2006年頃から、新しい情報サービスとしてSaaS(サース:ソフトウェア・アズ・ア・サービスの略)という言葉が使われるようになりました。その前の2000年頃から、ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダー)が注目されて、大きな事業になる可能性が期待されました。ASPはインターネットを利用して、ユーザーに情報処理サービスを提供する事業者です。最近はASPという言葉はほとんど使われなくなり、同じ意味の言葉としてSaaSが使われています。

 SaaS事業の世界的なリーディング・カンパニーといわれているセールスフォース・ドットコム社の資料によると、同社のユーザー数は日本国内で10万、世界で100万超であり、2005年に12百万件だったデータ処理件数が、2008年には14千万件に増えたということです。ユーザー数が何を指すのか分かりませんが、契約企業数とすると多すぎるので、このサービスを利用できる登録者数ではないかと推測します。

 市販されている商品の大部分は誰がどのように使うのかということがはっきりしていますが、ASPあるいはSaaSが提供しているサービスは誰がどのように使うのかということがよくわかりません。これはSaaSの発展のために重要なことです。

パソコン用のアプリケーション・プログラムは個々のパソコンに組み込んで使うのが一般的ですが、最近は文書作成や表計算などの一般的なアプリケーション機能を、インターネットを介してオンラインで利用できるサービスが増えてきました。このようなサービスもSaaSに含まれるのかどうか分かりませんが、無線携帯端末の発展と連動する新しい情報処理サービスの形態が芽生えてきたようです。

都丸敬介(2008.4.13)

なんでもマルチメディア(548):パソコンのソフトウェア

シニア世代を対象とするパソコン教室のまとめ役を引き受けてから2年近く

になります。人生経験が豊かで、時間と好奇心がたっぷりある人たちが興味を

持つようなテーマを探してテキストを作る作業には大きな時間がかかります

が、それよりも、教室で使う機材、特にソフトウェアの整備が大変だというこ

とを体験しました。

 ワードやエクセル、インターネットエクスプローラ、アウトルックエクスプ

レスといった、マイクロソフトの定番ソフトウェアでも、違うバージョンが混

在していると操作が混乱します。助成金もないボランティア活動なので、教室

にある寄せ集めパソコンの機能を合わせるだけでも簡単なことではありません

でした。

 パソコンの魅力を皆で体験して、新しいことを身につけるためには、上記定

番ソフトウェアだけでは不十分です。用意した教材に対する受講者の反応や要

望を見聞すると、写真の加工や整理、あるいは画像処理について関心が高いこ

とが分かりました。この分野のソフトウェアはかなり高額でしかも操作が厄介

です。教室で使うソフトウェアは、受講者が小遣いで買えて、家でテキストを

見ながら使えるものでなければなりません。

そこで、いくつものソフトウェアを入手して使ってみました。最近は、イン

ターネットで入手できる無料ソフトウェアもいろいろありますが、受講者に推

奨できるものはなかなか見つかりません。幸いなことに、昨年発売になったい

くつかのソフトウェアが要件を満たすことを確認しました。低価格で使いやす

いソフトウェア製品は大別して2種類あります。第1はマイクロソフトの製品

との類似性が高いものです。ワードやエクセルと互換性がある製品は、マイク

ロソフトの製品の10分の1程度の価格で購入できます。第2は定番製品とファ

イルの互換性があるけれども使い方が全く違うものです。このような製品で優

れたものを見つけ出すと嬉しくなります。ただし、市販のテキストがないの

で、使いこなすためのテキストを書き下ろさなければなりません。これも楽し

みの一つです。

都丸敬介(2008.4.8)

なんでもマルチメディア(547):情報通信ネットワーク新時代の開幕

今日(2008331)NTT東西日本のNGN(次世代ネットワーク)商用サービス「フレッツ光ネクスト」が世界に先駆けて始まりました。これまでの新聞や雑誌の記事では、NGNの普及に効果があるキラーコンテンツが見あたらないといった、ネガティブな論調が目に付きましたが、この新しいサービスは情報流通革命の起爆剤になる多くの特徴を備えています。

 328日に発表になったサービスメニューには、個人向けと企業向けがあります。企業向けサービスは目立たないメニューですが、広域企業ネットワークに大きなインパクトを与えると思われます。全国規模の企業や組織の広域情報通信ネットワークを支える通信サービスの分野では、1984年のディジタル専用線のサービス開始以降、フレームリレー、セルリレー、IP-VPN、広域イーサネットなどが次々に出現してきました。そして、企業情報通信ネットワークの構成がめまぐるしく変わってきました。

 「フレッツ光ネクスト」に含まれる「フレッツ・VPNゲート」と「ビジネスイーサワイド」は、技術的には既存のIP-VPNおよび広域イーサネットと同じかもしれませんが、性能やサービス品質の違い、そして料金の違いがあります。これらの要素がどのように評価されるのか興味があります。

 「フレッツ・キャスト」という、映像や音楽を配信するコンテンツ事業者向けのサービスは、コンテンツ事業者とNGNのネットワークをつなぐ幹線です。この幹線を通して提供される情報コンテンツがNGNの光アクセス回線によって家庭に届きます。4月からは地上波ディジタル放送の再送信が始まるようです。1本の光ファイバーによる放送と通信の融合がようやく実現しました。

都丸敬介(2008.3.31)

なんでもマルチメディア(546):ポータルサイト

日本で最も多く利用されているインターネットのポータルサイトはヤフーだけれども、世界的にはグーグルのほうがはるかに多く利用されているということです。今年の元日にヤフーのトップページが大幅に改造されてかなり使いやすくなったと感じましたが、最近のグーグルのトップページのほうが一段と優れているように思えます。

これまでは、求める情報の種類によって、いくつかのポータルサイトを使い分けていましたが、今ではグーグルだけで十分に満足しています。中でもニュース情報の入手が便利になり、内容も豊かになりました。特にニュース欄の最後の部分から、世界各国のニュースにアクセスできることは素晴らしいことです。残念ながら読めない言語が幾つもありますが、読めるものだけでも、日本のテレビや新聞では報道されないものが幾つもあります。また、同じ主題を取り上げていても、国によって視点が異なることがあり、好奇心を強く刺激されます。

動画配信サービスでよく知られているYou Tubeや地図情報として高く評価されているグーグル・マップをトップページから直接利用できるようになったことも便利です。こうしたことは、グーグルがこれらのコンテンツの作成や配信に直接関わっているからできたことかもしれません。

これまでは必要に応じてトップページから情報を探すことが多かったけれども、新しいトップページの出現によって、インターネットの情報への接し方が変わってきました。こう感じているのは私だけではないはずです。

都丸敬介(2008.3.24)

なんでもマルチメディア(540):CDN(コンテンツ配信ネットワーク)

東芝がHD-DVD事業からの撤退を発表して、次世代DVDの規格がブルーレイ・ディスクにしぼられたことが世界的なニュースになりました。消費者にとって規格統一は好ましいことですが、HD-DVDの開発を担当した技術者たちにとっては残念なことと思います。

 私の手元にはビデオテープ、レーザーディスク(LD)、DVDの3世代のビデオ記憶媒体があります。それぞれのコンテンツの中には、海外旅行の旅先で購入したものがあります。これらの多くは新世代の記憶媒体では入手が難しいものです。自分でDVDに書き込むのも面倒なので、それぞれの再生装置を使っていますが、さらにブルーレイ・ディスクのプレイヤーを購入する予定は今のところありません。

 それよりも、NGN(次世代ネットワーク)を情報流通ネットワークとして利用するVOD(ビデオオンデマンド)サービスの拡充に期待しています。新聞で「NGNにはキラーコンテンツが見あたらない」といった記事をときどき見かけますが、DVDとライブの放送中継ができるようになれば、コンテンツはほとんど無限にあります。

 ただし、本格的なビデオ情報流通ネットワークの発展のためには、解決しなければならないいくつもの重要なことが考えられます。一つは、元のVODサーバーのコンテンツのコピーを供給する多数のコピーサーバーで構成するCDN(コンテンツ配信ネットワーク)の整備です。インターネットのWebサーバーの情報分配については、世界規模のCDNが運用されていますが、VODで扱う情報のCDNをだれが、どのように構築するのかということは大きな課題です。NGNで流通するビデオ情報を受信する装置は、使い易いテレビ受像機をベースにしたものが主流になるでしょうが、適切な視聴料金体系や料金徴収システムの確立も重要な課題です。

 HD-DVDやブルーレイ・ディスクに取り組んできた優秀な技術者の多くが、その技術をNGN時代に活かすことを期待します。

都丸敬介(2008.2.20)

なんでもマルチメディア(538):ブロードバンド無線アクセス

昨年末、ブロードバンド無線アクセス・サービスのために、周波数2.5GHzの新しい無線電波を使う免許の付与が、KDDIグループのワイアレスブロードバンド企画と、PHSサービスを提供しているウィルコムの2社に決まりました。

ワイアレスブロードバンド企画は新しい技術であるWiMAX(ワイマックス)を使うことを計画しています。WiMAXは現行のADSLなみの高速通信速度を実現できる技術の1つとして、世界各国で注目されています。

 昨年7月、米国の老舗の大手通信事業者であるスプリント・ネクステルと新興通信事業者のクリアワイアが共同で、WiMAX方式の無線ネットワークを構築する計画を発表しました。しかし、この共同事業計画は11月にご破算になりました。そして、スプリントは単独でXOHM(ゾームと発音)という名称のサービスを提供する計画を進めています。当初の通信速度は2〜4メガビット/秒ということですが、WiMAX40メガビット/秒程度の高速通信が可能な技術です。

 光ファイバケーブルを使うブロードバンド固定アクセス・サービスの普及が本格化した日本で、ブロードバンド無線アクセス・サービスがどのように発展するのか、興味深い話題です。FMC(固定・移動体通信融合サービス)がすでに始まっていることから、ブロードバンド固定アクセスとブロードバンド無線アクセスは相互補完する形で共存すると考えられます。いずれにしても、話題が豊富になれば社会の活性化に力が入ります。こうしたことが政治や経済の停滞で蔓延する閉塞感を吹き飛ばすエネルギーになることを期待します。

都丸敬介(2008.1.20)