カナダの紅葉の名所ローレンシャン高原で、小型遊覧飛行機が墜落して日本人観光客が死亡するという痛ましい事故が起こりました。大きな楽しみが突然の死に暗転した人たちのことを思うと言葉がありません。私も3年前の今頃、ローレンシャン高原に紅葉を見に行ったことがあるので、今度の事故に無関心ではいられません。
ローレンシャン高原はモントリオールとオタワのどちらから行っても、車で2時間はかからない広大な場所です。ガイドブックには「モントリオールの北西50kmら150kmの一帯に広がる丘陵地帯」という説明があります。私はモントリオールから車で出かけて、小さな町を見たり、湖を一周する観光船に乗ったりしながら、スキー場があるトランブランという場所まで行きました。道路の両側は見渡す限り一軒の家もなく、色づいた森や山が延々と続きます。カナダの国旗になっているカナディアン・メープルの紅葉を期待していたのですが、圧倒的に多いのは黄葉でした。それでもトランブラン・リゾートの中を歩いていると、見事な紅葉に出会うことができました。
現役時代、紅葉の時期にオタワで開かれた、日本とカナダの2国間技術交流会に参加したことがあります。このとき、オタワにある国会議事堂の庭に植えられている何本ものメープルが見事に紅葉していました。この議事堂の脇を流れているオタワ川の岸には、小型水上機を係留する木製の台が点在しています。広大な森と湖の国カナダでは、多くの人が自家用の小型水上機を自動車のように利用しています。
このような国で起こった遊覧飛行機の墜落は信じがたいことですが、徹底した事故原因の解明が必要です。日本の新聞も、事故発生の報道だけでなく、解明された事故原因を詳しく解説してほしいと思います。
都丸敬介(2005.10.02)
カテゴリー: TOMARU
なんでもマルチメディア(425):日時計
現在の小中学校の理科の授業で、日時計を使って時間を計る方法を教えているかどうか知りませんが、旅先で日時計に出会うことがよくあります。古い立派な日時計を見ると、それを作った人や時代の様子が目に見えてくるような気がします。
インドのデリーから250kmばかり離れたジャイプルに、世界一という巨大な日時計があります。天文学を勉強したマハラージャが1730年頃に建設したものです。高さは27.4mあるそうで、2秒単位で時刻を測ることができるということです。この日時計が設置されている場所は、当時の最先端天文観測所で、いろいろな興味深い観測機器があります。
時計といえば、ジュネーブの時計博物館で、柱時計の原型のような大きな木製の時計を見たことがあります。いくつもの木製歯車を組み合わせたもので、動力源は太い縄の先にあるおもりです。水車のような木製の輪の回りに、丸い棒を等間隔で埋め込んだ歯車がきちんと動いているのは見事でした。
こうしたものを見ていると、初めてこれを見た子供たちがどのように反応するのか興味がわいてきます。物心がついたときから、近代科学技術の粋をつくしたものに囲まれた環境で育つと、基本的な物事に対して反応しなくなるのか、それとも新鮮な感動を覚えるのか知りませんが、好奇心を示すことを願います。
ふと思いついて、手元の百科事典で時計の項を開いたところ、「時計という語は、英語のtimekeeperあるいはフランス語のgarde-tempsに相当する」という記述がありました。これで知識が一つ増えました。
都丸敬介(2005.09.25)
なんでもマルチメディア(424):音声合成技術
ある企業の研究所で見学した最新の研究成果の一つに、パソコン画面に表示されている文書を読み上げる音声合成技術のデモンストレーションがありました。このデモンストレーションでは、小説の一文を読んでいましたが、イントネーションや間合いの取り方がプロのナレーターにかなり近いという印象でした。
音声合成の研究の歴史は長く、すでに多くの設備や機器に、合成音による音声ガイド機能が組み込まれています。しかし大部分は、比較的短い定型的な文節を組み合わせるものであり、小説のような任意の文章を、感情を込めて表現できるレベルには達していません。
文章を読む機械がどのようなところで有用かというと、目が不自由な人や病人を想定することが多いようですが、その利用範囲はかなり広いはずです。ラジオの番組に小説の朗読があります。自分で選んだ小説の朗読に目をつぶって聞き入ることができれば、多くの人たち、特に病人や高齢者は大喜びするでしょう。外国の新聞・雑誌を日本語に自動翻訳して読み上げるのを聞き流せるようになれば、現役のビジネスマンにも利用が広がると思います。通勤電車のなかで小説を読んでいる人が沢山います。揺れ動く混んだ車内で本を読むのはかなり疲れますが、機械が読み上げる声を耳で聞くならば、疲れも少なく、快適な時間を持てるはずです。
聞く人が違和感をもたないような自然な音声を、携帯機器で合成できるようになるまでに何年かかるか分かりませんが、この分野の研究がもっと活発になることを期待しています。音声合成の究極の目標は何かと考えると、いろいろなアイデアが浮かびます。聴きたい歌や自分で歌いたい歌の楽譜をパソコン画面に表示して、自分の声に合わせて機械に歌わせることができれば、新たな楽しい時間が生まれることと思います。
都丸敬介(2005.09.18)
なんでもマルチメディア(423):敬老の日
近づいてきた敬老の日にちなんで、ある新聞のコラムに「だれしも年は取りたくないと思っている」という書き出しに一文がありました。私も70才を過ぎた老人の一人ですが、年は取りたくないと思ったことがありませんので、この断定的な一言には疑問を感じました。もちろん体力や持久力、あるいは集中力の低下を実感していますが、これらは当然のこととして受け入れています。
50台後半には、60才になるのを待ち遠しく思っていました。早く定年になり、自分の意志だけで時間を使えるようになることに憧れていたのです。結局60代後半までサラリーマン生活をしましたが、自由の身になるのが遅すぎたとは感じていません。この間に夢が大きくなっていたのです。
海外旅行で知り合った人たちの中には、70代後半から80代でかくしゃくとしている人が少なくありません。これらの人たちに共通していることは好奇心が強いことです。なんでも見てみよう、なんでも体験してみようという気持ちが持続する限り、年齢のことは気にならないのかもしれません。
2007年に団塊世代が一斉に定年年齢に達するということで、いろいろな話題が生まれています。終戦で再出発した私たちの国が今年は還暦を迎えました。近年の惰性で年老いた国になるのではなく、これからの日本がどのような国に若返るのか楽しみです。
都丸敬介(2005.09.11)
なんでもマルチメディア(417):次世代ネットワーク
米国で毎年開かれている民間企業主催の技術コンファレンスに、次世代ネットワーク(NGN)コンファレンスというのがあります。今年も9月末にワシントンで開催されますが、プログラムを見ると、IMS、ADS、FMC、WiMAXといった、情報通信ネットワークの動向を示す幾つかのキーワードが並んでいます。これらのキーワードは今後5?10年の世界的な情報通信の潮流を示唆していると思えます。
IMS (IP multimedia subsystem)は第三世代携帯電話の標準化団体「3GPP」が作成した、実時間IPマルチメディア・サービスの規格です。
ADS (application delivery systems)はWebベースのインタフェースと高速インターネット・アクセスによって実現する、新しい情報ネットワーク・サービスの概念です。
FMC (fixed-mobile convergence)は固定電話と携帯電話の融合サービスです。これは日本でもすでに話題になっています。
WiMAX (worldwide interoperability for microwave access)は、無線都市域網(MAN)の標準技術の一つであるIEEE802.16規格として作成された、高速無線アクセス技術です。FTTHやADSLの利用が難しい地域を救済する技術として注目されています。
これらのキーワードはどれも情報通信インフラ関係のものですが、インフラが変化すると、それを利用する新しいサービスが次々に生まれます。新しい時代の情報通信インフラを利用する放送と通信の融合がすでに進んでいますが、単なる既存サービスの融合だけでなく、新しい概念のサービスの出現が期待できます。これは大きなビジネスチャンスになります。
都丸敬介(2005.08.21)
なんでもマルチメディア(416):スペースシャトル
宇宙飛行士の野口聡一さんが活躍したスペースシャトルのディスカバリーが、8月9日に無事帰還しました。関係者は大変心配だったと思います。
この時期に合わせるように出版された、スペースシャトル計画は最初から失敗だったという本を読みました。著者が強調しているのは、スペースシャトルを翼をつけた構造にしたことが失敗の根本原因だというのです。翼をつけたことによって、重量が大きくなり、打ち上げ方法に無理が生じたために、信頼性が著しく低下したと指摘しています。翼が役立つのは帰還して着陸するときだけなのだから、パラシュートを使って海に着水する円錐形構造を採用すべきだったと主張しています。
この指摘にはそうかなと思う点がありますが、全く触れていない幾つかの疑問があります。今回の飛行では、着陸予定地のケネディ宇宙センターが天候不順のために、代替地のエドワーズ空軍基地に着陸しました。代替帰還地はこの他にも用意されています。これは翼と車輪があるからできたことです。パラシュートを使って海に着水する方式でも、複数の代替帰還地を用意できるのか、回収失敗の可能性はないのかといったことについて、どのような検討が行われたのか説明がありません。
この本ではスペースシャトルの重量に注目していますが、宇宙ステーションに運ぶ機材の大きさについては触れていません。スペースシャトルの事故の影響で、現在は、ロシアの宇宙船を使って宇宙ステーションに交替要員を送っていますが、大きな機材を運ぶことができないでいます。大きな機材を宇宙ステーションに運び、不要になった機材を持ち帰るのにはどのような構造が適しているのか、納得できる説明がありませんでした。
まもなくスペースシャトル計画は終わるようですが、宇宙ステーションの建設や、これを利用するいろいろな実験計画がどうなるのか、今後もいろいろな話題が出てくることでしょう。興味深いことです。
都丸敬介(2005.08.14)
なんでもマルチメディア(415):モナリザ
最近、ルーブル美術館のモナリザの部屋がリフォームされたというニュースがありました。私が初めてこの絵を見たときは、大部屋の壁に、ほかの絵と並んでむき出しのまま展示されていました。その後で特別展示室に移り、この絵だけが防弾ガラスで保護されるようになりました。絵の前は広くなりましたが、人だかりが激しくなり、かえって見にくくなりました。今度のリフォームでどの程度見やすくなったのか知りませんが、モナリザ自身は幸せになったのかと、つまらない疑問が頭をよぎりました。
モナリザといえば、1950年代にフランスの文化担当国務大臣になった作家のアンドレ・マルローが、1923年に盗み出そうとして見つかり、3年の禁固刑になったということで有名な、東洋のモナリザがあります。このモナリザは、カンボジアのアンコール・ワットから40kmばかり離れたバンテアイスレイという、小さな寺院の入り口の両脇に彫られている女神の一つで、愛くるしい顔をしています。
私がバンテアイスレイ寺院を訪ねたのは2003年ですが、数十年前に日本各地で見られた、村の古い寺や神社の雰囲気でした。東洋のモナリザは覆いもなく雨風にさらされていますが、健康そのものの明るさを感じます。この寺院には見ていて飽きない魅力的な彫刻が溢れています。
アンコール遺跡群見学の拠点になるシェムリアップには、国際水準の立派な観光ホテルがいくつもできています。日本人が経営する現地旅行会社もあるので、幾日か滞在してゆっくり楽しむことをおすすめします。
都丸敬介(2005.08.07)
なんでもマルチメディア(414):ロンドンのテロ事件
今月ロンドンの地下鉄とバスで、2回の爆弾テロ事件が発生しました。たまたま、英国MI5がテロ組織アルカイダの資金源を絶つために、元SAS(英陸軍特殊空挺部隊)の隊員を徴募して、地中海でアルカイダの船を襲撃する作戦を実行するという小説「テロ資金根絶作戦(クリス・ライアン著、ハヤカワ文庫)」を読んでいました。襲撃部隊はダイヤモンドや金を手に入れたけれども、すぐに英国内のアルカイダ組織の報復を受けて、参加メンバーが次々に殺害されるというストーリー展開です。この本が出版されたのは2003年ですが、描かれている英国内のアルカイダ組織と今回の爆弾テロ実行組織にかなりの類似性が見られます。
今回のテロ事件では、実行犯の特定と拘束が迅速に進んでいますが、その手がかりが、大量に設置されているビデオモニターの記録映像だということに、驚きと同時に不安を感じます。プライバシー保護問題を扱った小説に、1948年に執筆されたジョージ・オーウェルの「1984年」があります。この小説には、個人の言動を常にキャッチするテレスクリーンという監視装置が登場することから、1984年に開かれた国際コンピューター通信会議で特別議題に取り上げられました。
今回の爆弾テロ事件発生後、街中に設置されたビデオモニターの是非が話題になっています。今のところ必要悪として肯定的に受け止めている人が多いようですが、機器設置や運用について法律で裏付けされた指針がないと、恐ろしいことが起こる可能性があります。
都丸敬介(2005.07.31)
なんでもマルチメディア(413):アイスブレーカー
本棚から取り出した古い本を読みながら、最初に読んだときのことを思い出すことがよくあります。1985年に発行された、新ジェイムス・ボンド・シリーズの「アイスブレーカー」(文春文庫)を久しぶりに読んで、20年前に時間が戻りました。
国際学会で知り合った、今は携帯電話で有名なノキアの研究開発部長に招かれて、ヘルシンキを訪問したとき、フィンランドを舞台にしたこの本を読み終えたばかりでした。ノキアが手配してくれたホテルの隣が、007のジェームス・ボンドが泊まったことになっているインターコンチネンタル・ホテルだったのです。
当時のノキアは、通信機器関係では構内電話交換機(PBX)の開発に力を入れていて、研究開発の管理手法について議論をしました。そして、仕事の話が終わった後で、ヘルシンキの郊外を案内してもらいました。
大作曲家シベリウスが作曲活動をしていたヘルシンキ郊外の家は、描いていたイメージどおりの、森と湖に囲まれた静かでゆったりした環境にありました。この家の近くには、伝統的なサウナ小屋も保存されています。
午後のお茶を飲みに立ち寄った彼の新築の家には、浴室のほかにサウナ・ルームがありました。電熱式の個人住宅用サウナはうらやましい設備です。
「フィンランドにも日本よりも優れている先端技術があるから見せてあげよう」ということで、ヘルシンキ湾沿いの造船所をモーターボートで外から見学しました。ここで建造していたのは、ステンレス・スチール製のアイスブレーカー(砕氷船)でした。喫水線から下の塗装がない銀色に輝く船体は今でも印象に残っています。
都丸敬介(2005.07.24)
なんでもマルチメディア(412):衛星写真
インターネットで見ることができる地図が増えてきました。地図によって表現や検索方法に工夫があり、見ているだけで楽しいものがあります。
ポータルサイト大手のグーグルの衛星写真が面白いということが、友人たちとの話題になったので紹介します。ホームページアドレスは http://maps.google.com/ です。地域によって精度が異なりますが、世界中の衛星写真が見られます。自分が住んでいる場所を高空から見下ろした感じは面白いものです。大都市の写真の中には、細かいところまで写っているものがあります。このサイトでは、日本国内の詳しい地図も見られます。
以前、ヨーロッパ路線の旅客機で、真下を見下ろすカメラの映像を機内のディスプレイに表示していたのを見たことがあります。窓から見下ろす景色とは全く違った感じで、宇宙飛行士になったような気持ちになりました。
宇宙飛行といえば、大事故で打ち上げが中断していたスペースシャトルが、打ち上げの秒読みになってからのトラブルで立ち往生しています。燃料タンクのセンサーの表示が、満タンと空で反対になったという解説がありました。その原因がまだ分からないということですが、これまでに何度か打ち上げたスペースシャトルはどうなっていたのだろうかと、不思議に思えます。関係者は大変でしょうが、早く原因を解明して、宇宙の新しい情報を届けてくれることを期待しています。
都丸敬介(2005.07.18)