なんでもマルチメディア(465):パソコンの寿命

米マイクロソフトのビル・ゲイツ会長の引退声明が話題になっています。マイクロソフトのビジネスモデルが大きな転換期を迎えて、新たな創業に挑戦しなければならなくなったときに引退できることは、幸せなことといえます。
 ところで、マイクロソフトのWindowsに支配された現在のパソコン事業は、次第にユーザー不在になってきたように思えます。Windows95が出現したときは、ようやくアップルのマッキントッシュに近づいてきたなと感じました。そして、Windows98で一人前になったという感想をもちましたが、その後のWindows Meは出来損ないで手を焼きました。現在主流のWindows XPはかなり完成度が高く、これから先も十分に使えます。
ところが、まもなくWindowsビスタが出荷されるとのことで、話題になっています。報じられているビスタの新機能は、パソコンのヘビー・ユーザーにとっては有り難いかもしれませんが、大部分のユーザーはXPで十分なはずです。したがって、ビスタの発売後XPがどうなるのか気にかかります。これまでのように、ビスタが発売になると、パソコンショップはビスタ一色になり、XPパソコンが手に入りにくくなるという状態になると、多くのユーザーが困るのではないでしょうか。
 どのような製品でも、レベルが低い段階では改良による全面的な置き換えが効果的ですが、完成度が高くなると、新製品の押しつけによる、既存製品の意図的な陳腐化はユーザーの反発を招くことがあります。マイクロソフトの事業戦略がどのようになるのか、大いに興味があります。
都丸敬介(2006.06.19)

なんでもマルチメディア(464):迷惑メール

電子メールの利用が定着したためか、最近は迷惑メールがあまり話題にならなくなりました。しかし、相手かまわずに送りつける大量の迷惑メールはいっこうに減っていないようです。大量の迷惑メール受け取った経験がない人は、迷惑メールの実感がないかもしれませんが、自分が迷惑メールの加害者になっているかもしれないことに気付いていないことがあります。
 その一つが、メーリングリストのメンバーに配信されたメッセージに対する返信です。メーリングリストのアドレスに送信したメールは、配信されるときの送信元アドレスがメーリングリストのアドレスになっています。したがって、返信を送るときに、宛先アドレスを書き換えないと、メーリングリストに記載されているメンバー全員に、その返信が配られます。
最近、ある会合の案内がメーリングリストを使って配信されました。このメールには「出欠の連絡は私のメールアドレスに送ってください」という幹事のコメントがあり、幹事のメールアドレスが記載されていたのですが、メンバーの半分くらいはメーリングリストのアドレスに返信を送っていました。
宛先アドレスのCcとBccの使い方にも注意する必要があります。いうまでもありませんが、複数のメールの宛先アドレスをCc欄に記載すると、そのアドレスはすべての受信者に公開されます。ある企業がダイレクトメールの配信先をCc欄に記載したために、個人情報の漏洩問題になった事例があります。本来は配信先のアドレスをBcc欄に記載すべきだったのですが、担当者の不注意でトラブルを発生させてしまったわけです。
 こうした教訓をどのように周知すればよいのかということは、重要な社会問題の一つです。
都丸敬介(2006.06.11)

なんでもマルチメディア(463):携帯電話の機能

 今日(2006年6月5日)の日本経済新聞に、携帯電話に欲しい機能についてのアンケート調査結果が照会されています。複数回答調査で、回答者の60%以上が欲しいとしている機能はeメール、カメラ、時計の三つです。これらに続くのがアドレス帳とGPSです。ホームページ閲覧、音楽プレーヤー、テレビ(ワンセグ)が35%程度でほぼ同じですが、電子財布機能やテレビ電話機能は30%以下となっています。
 調査方法はインターネットによるということなので、インターネットを利用していない携帯電話ユーザーもいることを考えると、回答結果にはいくらかの偏りがあるかもしれません。携帯電話の基本機能である電話を含めて、それぞれの機能の一日の平均利用回数と、延べ利用時間のデータがあると、利用者の行動様式がより鮮明になるはずですが、残念ながらこのようなデータは記事にはありません。
カメラと時計の機能が携帯電話と組み合わさることで、どのような相乗効果が生まれ、その効果がどの程度利用されているのでしょうか。カメラで写した写真を、すぐに友達や自分のパソコンに送れることは大きな相乗効果ですが、大部分のユーザーは独立したデジカメと同様に、写した写真を保存しているだけではないかと想像します。カメラと時計をそれぞれ持ち歩く代わりに、携帯電話一台を持ち歩けばよいということなのでしょうか。
 独立したカメラや時計と比較すると、携帯電話のカメラと時計の機能は劣りますが、これで十分だと考える人は独立したカメラや時計を持たなくなるでしょう。一方、不満を感じる人は、より高級なカメラや時計を求めるようになるのかもしれません。携帯電話の高機能化がもたらす消費者行動の変化は興味深いことです。
都丸敬介(2006.06.05)

なんでもマルチメディア(462):アメリカのグランドサークル

 西部劇映画を始めとする、アメリカの多くの映画のロケ地として有名な、アリゾナ州のモニュメントバレー(写真1)を中心とする、半径230kmほどの巨大な円がグランドサークルと呼ばれています。この円の中には、八つの国立公園と、16の国定公園が含まれています。先週、この中のザイオン国立公園、ブライスキャニオン国立公園、グランドキャニオン国立公園、レインボーブリッジ国定公園、モニュメントバレーを回ってきました。グランドキャニオンは有名ですが、ザイオンやブライスキャニオンも、それぞれに違った個性を備えた山岳地帯で、スケールの大きさに圧倒されました。
写真1:モニュメントバレー.jpg
ザイオンの目玉は、世界最大級の一枚岩という高さ700mの岩山です。ほとんど垂直に感じられる岩壁は、日本では見られない迫力があります。ブライスキャニオン(写真2)は何百もの巨大な岩の塔がひしめいています。この塔は岩盤が削られてできたものなので、車を降りたところの展望台からは全体を見下ろすかたちになります。第一印象は、中国・西安にある秦の始皇帝が造った兵馬俑とそっくりだということでした。岩の間を百数十m下の川まで下り、巨大な塔を見上げながら、降りた高さだけ上るのはかなりきつい運動でしたが、赤い岩肌と濃紺の空のすばらしいコントラストを楽しむことができました。グランドキャニオンでは目の前を悠然と舞うコンドルを見ました。
写真2:ブライスキャニオン.jpg
 グランドキャニオンから国際線の出発点のラスベガスに戻る途中、セドナという、軽井沢に似た観光地に泊まりました。付近には、アメリカインディアンの遺跡や、ボルテックスという強い地磁気が渦巻いている場所があります。自然の不思議を改めて体験しました。
都丸敬介(2006.05.29)

なんでもマルチメディア(461):交通博物館

東京・神田の交通博物館が今日(2006年5月14日)で閉館になるという、朝のテレビ・ニュースを見て、また一つの時代の転換を感じました。20世紀の産業の発展を支えた重要な社会基盤の一つが鉄道であることはいうまでもありません。そして、現在も多くの国で高速鉄道の建設が進んでいます。
 交通博物館は秋葉原の電気街の一部といってもよい場所にあるので、1970年代までは、秋葉原に行ったついでにときどき見学に行きました。その後は足が遠のきましたが、何時行っても、子供たちが眼を輝かせて展示品や模型を楽しんでいた光景を思い出します。交通博物館に通った子供たちの中から多くのエンジニアが育ったことでしょう。
 海外の交通博物館では、イギリスのバーミンガム鉄道博物館(現在のタイズリー機関車工場ビジター・センター)が印象に残っています。19世紀から20世紀初期にかけて世界の鉄道技術をリードしたイギリスの鉄道車両が保存されています。ここに行ったのはかなり前のことなので、記憶が不鮮明ですが、巨大な機関車の迫力に圧倒されたことを覚えています。
 今日閉館する交通博物館は、2007年度に新しい鉄道博物館として、さいたま市にお目見えするということです。新博物館は、敷地がこれまでの8.5倍あり、展示床面積も広くなるようなので、高齢者にも楽しめる新しいテーマパークになることを期待します。
都丸敬介(2006.05.14)

なんでもマルチメディア(460):ディジタル・シネマ

映画の制作から、配信、上映までの全工程をディジタル化した「ディジタル・シネマ」が、ようやく実用の段階に達したようです。2004年10月に開催された第17回東京国際映画祭でデモンストレーションが行われた後、2005年にはハリウッドのメジャー映画制作スタジオの標準技術仕様DCI (Digital Cinema Initiatives)標準が発表されました。
 ディジタル・シネマの規格には、画素数800万(横4,096×縦2,160)の4Kと、画素数200万(横2,048×縦1,080)の2Kの2種類があり、DCI標準には4K規格が採用されたということです。この解像度はハイビジョンよりもはるかに高精細です。
 技術面では映像情報のセキュリティ保護機能が注目されます。不正コピー防止のために、映像情報データを暗号化して映画館に配信し、上映装置で復号する仕掛になっています。暗号化したデータを復号するのに必要な暗号鍵の配送にも暗号技術を使っているので、不正コピーは非常に難しいようです。また、上映中の映像盗撮対策として,盗撮が行われた時刻と場所を特定できる電子透かしを埋め込む技術の開発が進んでいることが報告されています。
 データ量が多いので、映像情報の最大ビット速度は250Mビット/秒と高速ですが、高速光ファイバー・ネットワークの普及によって、新作映画配信の体制や映画産業が大きな転換期を迎えたようです。
都丸敬介(2006.05.07)

なんでもマルチメディア(459):ダ・ヴィンチ・コードの暗号

2003年に出版されて世界的なベストセラーになった、ダン・ブラウン著「ダ・ヴィンチ・コード」が、いろいろな話題を提供しています。「主題はキリスト教の聖杯伝説を背景にした、現代的なアクションドラマであり、暗号解読が重要な伏線になっている」というのが私の感想です。
 この小説で使っている暗号は、文字遊びの一つですが、それだけに感覚的に親しみを持てます。ただし、暗号の鍵にフィボナッチ数列という古典的な数列を使っているところがスマートです。
この小説を盗作だとする著作権侵害訴訟を担当した裁判官が、小説の中で使われている暗号方式を使って、裁判とは関係がない字句を判決文の中に埋め込んだことが分かって、英国の新聞をにぎわせたということです。目くじらを立てる人がいるかもしれませんが、ぎすぎすした今の時代では、こうしたユーモアは楽しいです。
 日本の旅行会社が、この小説の舞台になった場所を訪ねるツアーを企画して発売しました。小説の冒頭で殺人事件が起こったパリのルーブル美術館や、後半の舞台になったロンドンのあたりを回るようです。このツアーにはレオナルド・ダ・ヴィンチゆかりのイタリアは入っていないようですが、ミラノにあるレオナルド・ダ・ヴィンチ科学技術博物館にまた行ってみたくなりました。
都丸敬介(2006.05.02)
ダビンチコード(上下)

なんでもマルチメディア(458):スカイプの光と影

世界中で無料通話ができるインターネット電話として、利用者が増え続けているスカイプ(Skype)のデモンストレーションを体験しました。
 スカイプは、ルクセンブルグのスカイプ・テクノロジーズ社が開発した、インターネットを利用しているパソコンユーザー同士による、リアルタイムの会話を実現するソフトウェアです。一対一の通話に加えて、複数のユーザーが同時に会話に参加できる多地点通話や、ビデオ通話、文字メッセージによる情報交換などができます。2003年に無料ソフトの提供が始まり、日本語版もインターネットを経由してダウンロードできます。
 スカイプは、通信技術者たちが数十年間にわたって実現に取り組んできた、複数のユーザーが今いる場所で会議に参加できるデスクトップ会議システムを、きわめて経済的に実現した、すぐれた技術であり、サービス支援体制もよくできています。
 スカイプには大きな魅力がありますが、デモンストレーションを体験して、いくつかの危険を感じました。第一は、ファイル交換ソフトウェアのウイニーで問題になっているインターネットを悪用する情報漏洩です。スカイプの運用サービスで、情報漏洩に対してどの程度の保安対策がとられているか分かりませんが、狙ったユーザーの情報を収集することは、普通の電話を盗聴するよりもかなり容易だと考えられます。しかも、電話の盗聴は法律で規制されていますが、スカイプの盗聴は合法的にできるはずです。
 第二の問題は、普通の電話の代わりにスカイプを使おうとすると、インターネットに接続したパソコンを常に動作状態にしておく必要があることです。インターネットの常時接続ユーザーがハッカーの攻撃対象になりやすいことや、電力エネルギーの浪費につながることは、すでによく知られていることです。
 このほかにも、従来の電話サービスと比較すると、サービス品質面でスカイプにはいくつかの問題があります。どうやら、スカイプの光と影の両面の啓蒙が必要なようです。
都丸敬介(2006.04.23)

なんでもマルチメディア(457):シニアー・パソコン教室

 住んでいる市のボランティア活動の一つ、高齢者を対象とするパソコン教室の手伝いを頼まれて、かなり多くの時間を取られる状態になってしまいました。
 10年近く続いている教室で、受講者資格は、男性が60才以上、女性が55才以上ということになっています。受講者は女性が圧倒的に多いという状況です。何人かの人に、パソコンの勉強を始めた動機を聞いたところ、孫と会話をするときの共通の話題になる、定年退職したご主人のために同窓会の名簿や会合の案内状を作ってあげる、などといった、ほほえましい答えがありました。皆、最初は、パソコンの電源を入れたり切ったりするのにも苦戦したようですが、いまではUSBメモリーを持ち歩いて、データの収集を楽しんでいる人もいます。
 教室の雰囲気は、企業の社員教育や大学の講義とは全く違いますが、話をしながら感じる反応が非常にはっきりしています。多彩な学習者に、何をどう説明すればよいかといったことを考えていると、私自身も楽しくなってきます。講座のヒントを得るためにパソコンショップを歩き回っていると、料理教室の講師が食材を探しているときも同じような気持ちになるのかなと、ふと思います。
 パソコンの教科書に頻出するカタカナ言葉をできるだけ使わずに、講座のテーマとして取り上げた内容をしっかり受け入れてもらうことは簡単ではありませんが、新しい経験の蓄積が始まりました。
都丸敬介(2006.04.16)

なんでもマルチメディア(449):ガス会社のインターネット事業

米国のガス会社が、家庭や企業に天然ガスを供給しているパイプのネットワークを利用して、ブロードバンド・インターネット事業を提供する計画を推進しているという情報があります。
ガスの分配ネットワークの構成は、ケーブルテレビの番組配信ネットワークによく似ています。したがって、金属製のガスパイプを利用してインターネット情報配信ネットワークを作るという発想はそれほど突飛ではありません。しかし、ガスパイプの材料や構造は通信用ケーブルとは違うので、高速データを長距離伝送することは、技術的にはかなり困難です。このガス会社が研究しているのは、UWB(ウルトラ・ワイドバンド)という、高速無線通信技術を利用する方法で、100Mビット/秒?1Gビット/秒の高速データ伝送が実現できるという話です。この伝送速度は、光ファイバー・ケーブルを使うFTTH(ファイバー・ツー・ザ・ホーム)システムに匹敵し、電話ケーブルを利用するADSLよりも遙かに高速度です。
 技術開発の実態を調べていませんが、関係者は、2008年までに米国内の数百万の家庭にこのシステムを普及させると言っているようです。既存の設備を利用するので、サービスを提供するのに必要なコストは、ADSLやFTTHよりも少ないということです。
この技術の名称はBiG(ブロードバンド・イン・ガス)です。本当にビッグな事業になるのかどうか、日本のガス事業者はどのような刺激を受けるのか、といったことに興味があります。
都丸敬介(2006.03.12)