日立製作所が社内の食堂と売店で実験を行っている、利用者の指静脈認証だけで代金を決済するシステムの利用状況が、報道陣に公開されたそうです。小切手、クレジットカード、決済機能つき携帯電話など、現金を使わない決済システムが多様化して便利さが拡大しています。
バイオメトリックス技術の1つである静脈認証による代金決済は、新しい形態の電子マネーの1つといえます。クレジットカードの紛失や持参忘れはよくあることなので、バイオメトリックス認証だけで済む代金支払いがもたらす利便性と安全性は大きいといえます
この代金決済システムは、既存のクレジットカード・システムと連動するために、前もってカードの口座を開設しておく必要があります。実験システムでは、クレジット機能付き社員証を持っている社員を実験参加者として選んだということです。
一般的なユーザー認証では、ユーザー名(ユーザーID)と暗証番号(パスワード)の組合せでユーザーを特定しますが、ユーザー名と暗証番号はどちらも自由に変更できます。一方、バイオメトリックス認証では、認証用データがユーザーの身体的特徴に基づくものなので、人為的に変更することができません。したがって、原理的には、ユーザー名と暗証番号という2種類のデータを組み合わせる必要がありません。
一般に、ユーザー認証におけるバイオメトリックス技術の役割は、パスワードの代替と考えられていますが、バイオメトリックス認証技術は従来とは異なるいろいろな応用の可能性を備えています。今後の発展を見るのが楽しみです。
都丸敬介(2007.10.8)
なんでもマルチメディア(524):Windows Vista
なんでもマルチメディア(524):Windows Vista
普段使っているWindows XPパソコンの1台をWindows Vistaに改造しました。XPに満足しているので、Vistaに改造する積極的な理由はなかったのですが、指導をしているシニア・パソコン教室の受講者でVistaパソコンを購入した人が増えてきたことから、質問に答えるために感触をつかんでおきたいと考えたのが動機です。
導入したVistaはHome Premiumです。既存のアプリケーション・プログラムやデータをそのまま継承するために、新規インストールではなく、アップグレードしました。継承したプログラムやデータが多かったためか、アップグレード作業に5時間かかりました。
既存のアプリケーションやデータをほぼ完全に継承できましたが、継承できなかった機能もあります。継承できなかった機能の一つに、以前ハンドレッドクラブの会合で知り合ったワコム社の方から頂戴したペンタブレットがあります。重宝していただけに、使えなくなったのはショックです。この他に、パソコンを起動するたびに、継承できなかったことの警告が出る機能があり、これを取り除くのに苦労しました。
発売前から大きな飛躍があると思わせるいろいろな解説が出回っていましたが、実際に使ってみるとこれは素晴らしいと感じることがほとんどありません。Windows 95、98、Meと使ってきて、XPが出たときにようやく十分な完成度に達したと実感しましたが、VistaではXPよりも不便になった機能がいくつかあります。どのような設計思想からこうなったのか分かりませんが、改造したパソコンを元のXPに戻すことができないので、我慢するしかありません。
都丸敬介(2007.9.30)
なんでもマルチメディア(523):パスワードの更新管理
以前から、企業のエンジニアを対象にするセミナーで、会社の情報ネットワークに接続されているパソコンを使うときのパスワードをどの程度の頻度で更新しているのか質問しています。5年ほど前までは、定期的なパスワード更新をしていないという人がかなり多くいましたが、最近は多くの企業が比較的短期間でパスワードの更新を実施しているようです。
比較的多い、一般的なパスワード更新管理は、(1)パスワードの有効期間が3ヶ月から6ヶ月程度で、定期的に更新する、(2)有効期限が近づくと警告の通知があり、期限内に新しいパスワードに切り換えないと、期限切れになったとたんに情報ネットワークにアクセスできなくなる、(3)一度使ったパスワードも、4回〜6回パスワード更新をした後でまた使える、といった方法です。
しかし、ときどき、首をひねりたくなるような話が出てくることがあります。
Aさんの会社では、パスワードの有効期間が30日になっています。しかし、有効期限が過ぎたパスワードを使い続けることができます。その代わり、有効期限が過ぎたパスワードを使っていることが分かると、始末書を書かされるということです。
Bさんの会社では、パスワードの有効期間が30日で、一度使ったパスワードは一年間繰り返し使用ができません。現在使っているパスワードがどれだか分からなくなるので、パソコンの近くにある紙にパスワードを書いておく人がかなりいるということです。
Cさんの職場では、社員が不在の時に、必要に応じて責任者が不在社員のパソコンを使えるように、パスワードを上司に通知することになっているということです。
このほかにもいろいろなことがありますが、どのようなパスワード管理をしているかという情報そのものがセキュリティ保護対象になります。
都丸敬介(2007.9.24)
なんでもマルチメディア(522):猛暑
「暑さ寒さも彼岸まで」という言葉がありますが、秋のお彼岸が近づいたのに、一向に暑さが和らぐ気配がありません。昨日、今日と続けてテニスをしていて、学生時代の真夏の合宿を思い出しました。それでも、35度程度であれば屋外スポーツができるし、体温よりも高温の40度台でも旅行ができるのですから、人間の適応能力には驚きます。
シルクロードの旅をしていたときに、ガイドから面白い話を聞きました。高温で知られているトルファン盆地のオアシスの町トルファンでは、49.9度以上に気温が上がることがないというのです。気温が50度以上になると、役所を休みにしなければならないという規則があるので、実際の気温が50度以上になっても、公表気温を50度以下にするのだそうです。この話の真偽のほどは確認しませんでしたが、トルファン盆地にある、孫悟空が活躍した火焔山を見ていると、燃えるような暑さが現実味を帯びてきます。
過日、ギリシャで大規模の山火事がありました。出火原因は放火だということでしたが、暑い地方では自然発火の山火事の跡をみることがよくあります。スペインのバルセロナの郊外に標高1400mのモンセラットという岩山があります。11世紀に建てられた立派な僧院の裏山にケーブルカーで登ったところ、白い岩の間に生えている木が見渡す限り炭のように真っ黒になっていました。猛暑の夏に自然発火で山が丸焼けになったのだそうです。こうしたすさまじい自然を見ると、猛暑といっても日本は温暖なのかもしれません。
都丸敬介(2007.9.16)
なんでもマルチメディア(521):パヴァロッティ
20世紀最高のテノール歌手の一人といわれたルチアーノ・パヴァロッティ氏が9月6日に亡くなったことが、テレビや新聞で報じられました。日本だけでなく世界各国のメディアのトップニュース扱いになったということですから、偉大な歌手だったことを改めて認識しました。昨日行われた葬儀にはイタリア首相も参列したとのことです。
私がパヴァロッティの歌声に最初に魅了されたのは、米国のホテルの部屋で見たテレビ放送でした。1980年代の初期のことで、正確な年月も場所も思い出せませんが、翌日の仕事の準備を放り出して、素晴らしい声と迫力がある演技に引き込まれたことを覚えています。
今手元には、パヴァロッティの声や映像が収録されたLD、CD、DVDが何枚かあります。その中の、1971年から1985年にかけて録音された32曲を収録した2枚組のCDは、最盛期の張りがある声をたっぷり楽しめます。このアルバムの最後の曲は、2006年のトリノ・オリンピックの開会式でパヴァロッティが歌い、女子フィギュアスケートで金メダルを獲得した荒川選手が使ったことで有名になった、プッチーニの歌劇「トゥーランドット」第3幕の「誰も寝てはならぬ」です。
1970年代の録音を聞いていると、1960年代に急速に進歩した録音技術が、1970年代には高いレベルに到達したことを思い出します。多くの歌手の最高の歌声や演技をいつでも楽しめることに感謝しています。
都丸敬介(2007.9.9)
なんでもマルチメディア(520):システムのトラブル対策
テレビや新聞で報じられる話題の多くは事故や不正行為に関わることです。トラブルが発生すると、事後対策の善し悪しによって危機管理能力が問われ、あるいは未然に防げなかったのかということが話題になります。
情報通信システムの開発では、開発労力の80%程度がトラブル対策のために費やされるといわれます。80%というのは比喩的な値であり、実際の値は対象システムによって異なりますが、開発段階でトラブル対策を軽視したために大きな問題を起こした例が多くあります。
日本の電気通信システムや電力システムでは、先駆者たちの永年の努力によって、非常に高いサービス信頼性が維持されていますが、技術の急速な進歩にともなって大きな変革が進んでいます。高いサービス信頼性を実現するための基本は故障が起こりにくくすることですが、これだけでは十分ではありません。操作ミスのような人的原因による事故に対する安全対策が不十分だと信頼性を大きく低下させます。
機能の多様化や高度化が続いているパソコンや、インターネットサービス、各種の家電製品などを使っていると、トラブル対策についての基本的な考え方が分からないものや、提供側の論理が優先して、利用者にいろいろなことを押しつけているものが目に余ります。
NGN(次世代ネットワーク)の実用化を始めとして、新しい情報通信システムの開発が活発になってきた今こそ、改めて利用者指向のトラブル対策の充実が求められます。
都丸敬介(2007.9.3)
なんでもマルチメディア(519):インターネット不正行為の被害額
情報漏えいや迷惑メール、DoS(サービス不能)攻撃など、インターネットを悪用する犯罪的不正行為がますますエスカレートしています。インターネットやパソコン関係の雑誌には、毎号のように、情報セキュリティ関係の記事が掲載され、セキュリティ・サービスやセキュリティ・グッズが成長産業になっています。
ところが、インターネットを悪用する不正行為によって、どのような損失が発生し、誰がどの程度の被害を被っているのかという、具体的な解説はほとんどありません。ユーザー情報が漏えいしたクレジットカードの不正使用による被害金額や、著作権侵害になる不正コピーによる被害金額、インターネット通信販売詐欺の被害金額などが発表されることがありますが、迷惑メールやコンピューター・ウイルスによって発生する被害金額がどの程度あり、誰が被害を受けているのかということになると、さっぱり分かりません。
経済産業省が実施している情報処理技術者試験の、平成17年度テクニカルエンジニア(ネットワーク)試験問題の一つに、コンピューター・ウイルスによって企業が被った被害額を算出したモデルが示されています。このモデルではウイルスによる被害額を、表面化被害額と潜在化被害額に分けて算出しています。
いろいろなケースについて、このような調査と分析に基づく啓蒙活動が望まれます。迷惑メールによるインターネット設備の無駄遣いが、グローバルな電力消費量の何パーセントになっているのかも気に掛かります。
都丸敬介(2007.8.26)
なんでもマルチメディア(518):尾瀬
今月30日に尾瀬地域が日光国立公園から分離して「尾瀬国立公園」になることが決まりました。私が最初に尾瀬登山に出かけて、その美しさのとりこになったのは1950年代の初期です。それから、春夏秋冬のすべての季節に何度も尾瀬に行きました。
今の天皇陛下が結婚された日が臨時の祝日になったので、この日を挟んで尾瀬にスキーに行きました。尾瀬ヶ原の西端にある山の鼻小屋に泊まり、暗いうちに至仏山の山頂までスキーを担いで登り、山頂から一息に滑って降りたことが昨日のことのようです。その後、尾瀬ヶ原を横切り、凍結した尾瀬沼の上を歩いて、長蔵小屋にたどり着いたのは真っ暗になってからでした。
長蔵小屋の3代目のご主人だった平野長靖さんは、私の職場の友人が高校の同級生だったことから、スキー合宿の世話になり、親しくなりました。長靖さんは尾瀬を環境破壊から守る保護運動で活躍中の1971年12月に、過労で遭難死されました。その数週間前に晩秋の尾瀬を訪ねたのが長靖さんと話をした最後になりました。
尾瀬の最高峰の燧ヶ岳に登ると、北側に形がよい会津駒ヶ岳が見えます。この山も新しい尾瀬国立公園に入ることになりました。駒ヶ岳の入口にある檜枝岐村には良い温泉と伝統的な郷土芸能の檜枝岐歌舞伎があります。駒ヶ岳の山頂付近は広々とした気持ちの良い場所です。
国立公園になっても、美しい場所は何時までも自然の姿を保って欲しいと願います。
都丸敬介(2007.8.20)
なんでもマルチメディア(517):固定電話の意味
昨日(2007年8月11日)の日本経済新聞に、「固定電話 全国一律制09年廃止 総務省方針 IP網へ移行促す」という見出しの記事がありました。内容は、「NTTの固定電話の全国一律サービス(ユニバーサルサービス)制度を打ち切る方針だ」ということであり、技術の変化と進歩の状況を考えると、画期的な政策の転換とも思えません。
この記事を読んで、「固定電話からIP電話への移行」という文脈で問題を解説していることが気になりました。「固定電話」は「携帯電話」あるいは「移動体電話」に対置する言葉であり、IP電話という技術に基づく用語とは性格が異なります。執筆者がこうした基本的なことをしっかり把握していないためか、記事の内容には何カ所かあいまいな記述がありました。
既存の固定電話では、個々のユーザーと電話局をつなぐアクセスネットワークと呼ぶ通信回線設備として、銅線のメタリックケーブルを使っています。携帯電話のアクセスネットワークは無線通信方式なので、携帯電話の普及が進んで固定電話のユーザーが減ると、メタリックケーブルを使うアクセスネットワークの維持コストの確保が難しくなります。この対策として、経済的な光ファイバー・アクセスネットワークの導入や、固定無線アクセスネットワークの導入が進んでいます。
NGN(次世代ネットワーク)構想では、電話だけあれば良いというユーザーから、高速インターネット利用や映像番組配信を希望するユーザーまでの幅広いニーズに柔軟に対応できる技術として、高速IP通信技術を選んでいます。このことがもたらす本質的な効果を、「固定電話対IP電話」という文脈ではなく、多面的に分析した解説記事を期待します。
都丸敬介(2007.8.12)
なんでもマルチメディア(516):北フランス旅行記(6)
6月15日(金)
朝9時にホテルを出発。ホテルの正面に虹が出て、やがて雨になった。
カンペールはパリのモンパルナス駅から出ているTGVの終着点。17世紀に始まった陶器のカンペール焼きが有名だという。ホテルの近くにあるカンペール焼きの工房を見学。製品の年産20万個の中規模の量産工場で、技術的にもデザイン的にも特に優れているとも思えない。絵柄にブルターニュ地方の地域性が見られるのが特徴かもしれない。原料の土は南仏から運んでいるという。
コンカルノーで港に突き出た城壁の一部を歩いた後、旧市街を歩いた。
ポンタヴァン(Pont Aven)で、ゴーギャンの絵のモデルになったというキリスト像があるトレマロ礼拝堂を探して、30分以上も雨の中を歩き回った。木製の「黄色いキリスト」は小さな暗い煉瓦積み礼拝堂の側面の壁に掲げられていた。
カルナック(Carnac)で昼食を済ませてから有名な先史時代のカルナック巨石群を見た。細長い草原に約3,000の巨石が4kmにわたって行列して立っている。周囲には柵が設けられていて、ガイドなしでは敷地内に入れない。
イギリスのストーン・ヘンジとは全く異なる形態であり、構築した目的が違うのだろう。ブルターニュ地方にはこの他にもいろいろな巨石遺跡があるという。
カンペールに戻り、町の中心のサン・コランタン大聖堂を見てホテルに戻った。
6月16日(土)
朝9時に出発。レンヌまで200kmの道を、一回トイレ休憩しただけで走る。そば粉のクレープ「ガレット」とシードルの昼食。サン・ピエール大聖堂や町の中心部を散策。
16時5分にTGVでレンヌ発を出発して帰路についた。明日はパリの休日。
都丸敬介(2007.7.30)