なんでもマルチメディア(589):IT人材の育成

今朝(200932日)の日本経済新聞第1面に「IT分野 40−50万人雇用」と

いう見出しで、IT分野の「3カ年緊急プラン」を政府が検討しているという記事があ

りました。3年計画で、3兆円の投資の増加と40−50万人の雇用創出を目指すと

いうことです。このような計画はこれまでにも何度か立案されて実施されてきました

が、その成果についての説明や評価を目にしたことはほとんどありません。

 この新聞記事によると、IT人材の育成について「全国のネットカフェなどでコン

ピューターや通信などに関する基礎知識をインターネットを通じて教える」というこ

とですが、このようなことで大量の雇用創出につながる人材育成ができるとは思えま

せん。

 

 IT人材の育成については、職種ごとに求められる知識や技能を体系的に整理したIT

スキル標準を経済産業省が策定し、これに基づいて情報処理技術者試験が行われてい

ます。このITスキル標準や試験問題の内容を見ると、基礎知識に加えてかなりの専門

知識が求められることがわかります。

 

 インターネットを利用するeラーニングシステムはすでにあります。学習意欲があ

れば、既存のeラーニングシステムを利用して多くの知識を身につけることができる

でしょう。しかし、実務的なスキルを身につけるには十分とは思えません。実務の現

場を疑似体験できるバーチャル・リアリティ教材の充実がこれからの大きな課題にな

ります。そして、このこと自体が大きな雇用創出になる可能性があります。

 

都丸敬介(2009.3.2)

なんでもマルチメディア(585):ディジタル・シネマ

映画館で上映する映画の配給を、フィルムの輸送から通信回線によるディジタル伝
送に切換える、ディジタル・シネマ配信が具体化してきました。東宝と角川が今年か
ら映画館にディジタル・シネマ機器の導入を始めて、2012年までに、全スクリーンを
ディジタル化するということです。
カラオケの分野で、通信回線としてISDNを利用する通信カラオケが出現した
のが1992年です。そして、ディジタル・シネマについては、2001年にNTTが最初の配
信実験をおこない、2004年に東京国際映画祭で本格的な上映がおこなわれました。
 通信カラオケが成功した背景には、モデムを使うデータ伝送よりも高速で、通信品
質が安定しているISDNの普及があります。そして、ディジタル・シネマの実用化の背
景には通信品質が良いブロードバンドサービスであるNGN(次世代ネットワーク)の
商用サービス開始があります。
 ディジタル・シネマの標準技術規格であるDCI(ディジタル・シネマ・イニシア
ティブ)の4K規格は、画素数800万(横4,096×縦2,160)です。不正コピー防止のた
めに、映画館に配信するデータを暗号化し、盗撮対策として、盗撮がおこなわれた時
刻と場所を特定できる電子透かしを埋め込むといった機能が組み込まれています。
 この規格の技術であれば、光ファイバー回線を引き込んだ家庭のパソコンでも対応
できるはずです。家でDVDの映画を楽しんでいる多くの人たちが、映画館で上映され
ている新しい映画を家で楽しめる時代が迫ってきました。
都丸敬介(2009.1.25)

なんでもマルチメディア(578):ネットワークのサービス品質

インターネットを利用する電話やテレビジョン放送が始まったころから、音声や映

像がとぎれることを多くのユーザーが体験するようになりました。そして、IPネット

ワークのQoS(サービス品質)が重視されるようになり、さらにQoE(ユーザー体感品

質)が注目されるようになりました。

 QoSの項目には、データ伝送速度、接続にかかる時間、伝送遅延時間、パケット損

失率、など多くの項目があります。QoSパラメーターとよぶこれらの項目は、大部分

が測定あるいは観測データの収集によって個別に数値化できます。ところが、個々の

QoSパラメーターの値が良好であっても、ユーザーが満足するとはかぎりません。

ユーザーの満足度には主観的な要素が入るので、これを数値化することがかなり難し

いのです。

 現在のインターネットを支えているIPネットワークは優れた技術ですが、本格的な

マルチメディア・サービスで安定したQoEを維持するためには、従来のインターネッ

トの設備では不十分です。今年サービスが始まったNGNは良好なQoEの実現を目指して

いますが、まだまだ多くの解決すべき課題を抱えているように見えます。

 重要な課題の一つが、ネットワーク・サービス動作の制御や管理機能と、データ転

送機能の分離です。IPネットワークの最大の特徴は、ネットワーク全体を制御・管理

する機構がなくても自律的にデータ転送がおこなわれることですが、従来の技術のま

までは良好なQoEの実現が困難です。こうした問題に関する啓蒙記事が市販されてい

る専門雑誌でほとんど扱われていないことが気になります。

都丸敬介(2008.11.24

なんでもマルチメディア(575):技術者の再教育

米国の金融破綻をきっかけにして始まった世界的な経済の不安定化が情報通信産業

にも大きな影響をもたらし始めました。20年前に日本でバブル経済がはじけたとき

に、それまで順調に拡大してきたソフトウエア産業で、多くの従事者が職を失いまし

た。このとき目立ったのがCOBOLを使ってプログラムを作っていたソフトウエア技術

者の失職です。

 今回は企業情報システムの開発や構築に従事しているシステム・エンジニア(SE

の職場が大幅に収縮する気配があると指摘されています。

 COBOL技術者を中心とするソフトウエア技術者が大量に余ったとき、当時の通商産

業省は情報処理技術者全体の育成計画を見直しました。その結果がどの程度の実を結

んだかという客観的な評価は難しいでしょうが、いつのまにかソフトウエア技術者が

余っているという話はなくなりました。

 これからSEが仕事をする場が急速に収縮するならば、身につけた技術を生かせる新

しい職場を探すかあるいは創出しなければなりません。幸いなことに、2 0年前と比

較して情報通信システムの規模が大幅に拡大し、複雑化してきたことを考えると、優

れた技術者が働く場は十分にあるように思えます。ただし、新しい仕事につくために

は組織的な再教育と本人の学習努力が必要です。

 私は現役を引退して10年以上たちましたが、今でも企業の技術者育成の手伝いを頼

まれています。そこで感じていることは、実際のシステムを事例にして体系的に解説

することの大切さです。

都丸敬介(2008.10.27

なんでもマルチメディア(573):ケータイのガラパゴス化

しばらく前から、日本の携帯電話産業のガラパゴス化という言葉が使われるように

なり、テレビや新聞でも取り上げられています。南米大陸から900km離れた太平洋上

のガラパゴス群島で独自の進化をとげてきた固有種動物が絶滅の危機に瀕しているこ

とにたとえて、日本の携帯電話産業が、国際的な市場で北欧や韓国のメーカーに負け

ている原因が、日本国内独自の規格や技術にあると指摘しているのです。

 このような状態が続くと、日本の携帯電話産業は絶滅の危機を迎えるという警告な

のでしょうが、先端技術産業の進歩とガラパゴス諸島の動物の進化は明らかに違いま

す。最近見たテレビ番組の中で、「ヨーロッパではどの国に行っても同じ携帯電話機

を使って通信ができるのに、日本にくると使えないと」いう事例を引用して、ガラパ

ゴス化現象を説明していました。限られた時間のなかでの解説としてはやむを得ない

ことかもしれませんが、この説明は誤解を招く内容です。

 規格が異なる方式の情報通信システム間の相互接続は、100年以上も前からある問

題であり、この問題を解決する基本的な手段として技術の国際標準化が行われてきま

した。初期の国際標準化活動の目標は単一規格の制定でしたが、1990年代以降は複数

の規格の間の相互接続技術が急速に進歩しました。携帯電話のような先端的な技術分

野では、もはやガラパゴス化現象による製品あるいはシステムの絶滅は考えられませ

ん。これからも日本の企業は世界をリードする気概をもって先端的な技術の開発に取

り組むことを期待します。

都丸敬介(2008.10.7

なんでもマルチメディア(571):有効期限

2008914日に全日空の国内線発券システムで障害が発生して、合計63便が欠航するという大きなトラブルがありました。18日に発表された障害の原因説明によると、発券端末の起動時に端末の正当性を確認する端末管理用サーバーの有効期限が切れたのに気がつかなかったためだということです。

 新聞やインターネット上の解説記事ではトラブルの原因の詳しいことがわかりませんが、システム運用部門とシステム提供者の両方に初歩的な問題意識の欠如があったと考えられます。情報システムの安全性を維持するためにユーザーのパスワードに有効期限を設けることや、不正使用を防ぐためにレンタルあるいはリースシステムに使用期限を設けることが一般的におこなわれています。

 定期的にユーザーのパスワードを変更することを義務づけている情報システムの多くは、使っているパスワードの有効期限切れが近づくと自動的に警告がでます。また、ユーザーに対して定期的なパスワード変更を義務づけるようなシステムの運用担当者は、自動的に警告が出るか出ないかということをシステム導入時に確認するのが常識です。システム提供者にはこうした機能の有無を説明する責任があります。

 私たちの身の回りにも、運転免許証や保険契約、クレジットカードなど、有効期限が設定されていることがいろいろあります。全日空は有効期限が設定されている全機能を9月末までに調査するということですが、私たちも気をつけなければなりません。

都丸敬介(2008.9.21

なんでもマルチメディア(570):ミニノートパソコン

最近、大きさが通常のノート型パソコンの半分以下のミニノートパソコンがよく売れているようです。私の手元にあるものは、ミニノートブームのきっかけになった、台湾のアスーステックのEee PC 701です。大きさは、幅22.5cm、奥行き16.5cm、厚さが最大3.5cmで、重量は970グラムです。OSはウインドウズXPです。ワープロや表計算などの一般的なアプリケーション・プログラムは付いていませんが、メールの送受信やインターネットの情報閲覧、および写真の簡単な修正や印刷ができるソフトウエアは入っていました。

 私はこのパソコンが発売されてまもなく、パソコンショップの店頭で、45千円で買ってきて重宝しています。現在市販されているのは性能が改善されたEee PC 901です。701よりもディスプレイ画面が大きくなり、内蔵メモリーの容量が増えた分だけ高額になりましたが、それでも6万円以下です。現在はアスーステック以外の複数社の同様な製品が市販されています。

 このような小さくて軽い製品を実現するにはいろいろな工夫が必要です。このパソコンにはハードディスク・メモリーがありません。その代わりに、デジタルカメラで使っているのと同じ、大容量のフラッシュ・メモリーを使っています。CD//DVDを読み書きするドライバーが付いていないので、新しいソフトウエアを組み込むときに困るかもしれません。ただし、ソフトウエアを組み込むときだけ外付けのCD//DVDドライバーをつなぐか、あるいはインターネットを経由して、必要なソフトウエアをダウンロードすればこの問題は解決できます。

 最近は標準的なノート型パソコンの価格も安くなりました。こうした中で国産ブランドのパソコンメーカーが生き残ることの難しさを感じています。

都丸敬介(2008.9.15

なんでもマルチメディア(567):電子番組ガイド

視聴できるテレビジョンのチャンネル数が30〜50程度になると、見たい番組を探すのが難しくなります。そこで、テレビ受像機やインターネット接続したパソコンに番組を表示するEPG(電子番組ガイド)が1990年代後半に生まれましたが、これを日常的に利用している人はあまり多くないようです。

 NGN(次世代ネットワーク)のようなブロードバンド情報流通基盤が普及すると、視聴できるチャンネル数がさらに増えるだけでなく、VoD(ビデオ・オン・デマンド)サービスで視聴できる番組数が飛躍的に多くなります。こうした潮流に対応する新しいEPGの開発が活発になってきました。

インターネットの世界ですぐれたキーワード検索技術を武器にしたグーグルが飛躍的な発展を遂げたように、次世代EPGの分野では、キーワード検索と画像コンテンツ検索を組み合わせた、すぐれた視聴ガイドサービスを実現する企業の成功が考えられます。

 公表されている最近のEPG技術やサービスの内容からは、まだ画期的な発想やその実現手段を裏付ける要素技術が見えません。画像コンテンツを検索する技術の国際標準にMPEG-7という規格がありますが、この技術だけでは次世代EPGを実現できそうもありません。近い将来、何が起こり、どのような評価を得るのか、興味深いことです。

都丸敬介(2008.8.25

なんでもマルチメディア(563):ディジタル・サイネージ

最近、ディジタル・サイネージという言葉を目にすることが多くなりました。サイネージ(signage)という単語は比較的新しく、辞書にも見当たりません。ディジタル・サイネージに相当する日本語はディジタル看板ですが、従来の看板のイメージとはかなり異なります。概念的には「街角や商業施設、電車の中などに設置した電子的ディスプレイに、ネットワークを利用して広告などの文字・映像情報を配信して表示するシステムの総称」といえます。

 今年の2月に米国ラスベガスで開かれたディジタル・サイネージ・エキスポの報告画面を見ると、このための技術と利用分野が急速に発展していることがわかります。ただし、基本的なことは1980年代に議論した「将来のマルチメディア情報システムの形態」からあまり進歩していないという印象です。ブロードバンド通信ネットワークの普及、ディスプレイの大画面化と価格低下、画像データ処理技術の進歩、データの検索と配信技術の進歩などの総合効果として、20年前の夢が実現したのが現在のディジタル・サイネージの姿です。

 この技術の応用がインターネットの中でプッシュ型情報配信の一つとして発展するでしょう。その結果、多くの人たちに興奮や安らぎなどのいろいろな効果をもたらすでしょうが、犯罪的行為を誘発する危険もあります。

 健全なディジタル・サイネージの在り方の検討が求められる時代になりました。

都丸敬介(2008.7.22

なんでもマルチメディア(561):テレコミューティング

今日(200877日)北海道洞爺湖サミットが始まります。今回のサミットの重要なテーマの一つが地球温暖化対策です。ガソリンを始めとする化石燃料が発生する二酸化炭素が温暖化を加速していることが指摘され、その対策が地球規模で検討されるようになってからかなりの年月が経ちましたが、問題は一層深刻になっています。

 情報通信技術が急速に発展した1990年代初期に米国でテレコミューティングという言葉が使われるようになり、その効果の検討や検証が活発になりました。そのきっかけは車による通勤(コミュート)時間が年々増大していることでした。そして、情報通信技術を効果的に活用することが、通勤時間帯のすさまじい交通渋滞によって生じるいろいろの問題を緩和するのに効果があることが指摘されました。

 この時代に、在宅勤務あるいはサテライトオフィスという言葉が日本でも盛んに使われるようになりました。そして、ブロードバンド通信サービスの普及や、情報セキュリティー技術の進歩に支えられて、在宅勤務者あるいはテレコミューターがかなり増えてきました。

しかし、テレコミューティングがもたらすエネルギー消費削減効果については、具体的な情報がほとんどありません。自家用車通勤者のガソリン消費量の削減や、出勤者の減少に伴うオフィスの電力消費量の減少など、テレコミューティングの効果がかなりあると思われます。これらのことについては、情報通信産業を中心にして、すでに多くの実績があるはずです。エネルギー政策や労働政策を立案して推進する組織から、啓蒙的な情報が提供されることを期待します。

都丸敬介(2008.7.7