なんでもマルチメディア(628):ライフログ

最近ライフログ(lifelog)をキーワードとする研究や議論が目に付くことが多くなってきました。「行動履歴記録」という堅苦しい言葉がライフログの意味を端的に表していますが、記録対象項目やデータの取得方法、記録したデータの利用方法などについての枠組みは明確ではありません。

 クレジットカードを使った商品購入履歴、家電機器のリモコンの操作履歴、GPSと連動した車の走行履歴などのライフログは、企業の販売戦略の有力な情報になりますが、犯罪に悪用される危険もあります。

 米国国防総省高等研究計画局(DARPA)が着手したLifeLogプロジェクトは、プライバシー保護のために2004年に取りやめになったということです。2008年頃から総務省と経済産業省がライフログの検討会を行っているようですが、その内容はインターネットで見てもほとんど分かりません。

 ライフログの技術は孤独な高齢者の安全保護やエネルギー消費量の節約など、多くの社会問題対策に活用されるでしょうが、悪用を防がなければなりません。ライフログは一例に過ぎないことかもしれませんが、情報通信技術が市民生活に与える影響を、分かりやすい言葉で具体的に説明する啓蒙活動が必要です。

都丸敬介(2010714)

なんでもマルチメディア(627):会議室のパソコン

新聞で面白い記事に目が留まりました。ある会社で、役員会の参加者が持参するパソコンをiPadに取り換えたところ、会議の雰囲気が引き締まったというのです。ノートパソコンだと、参加者の目線がディスプレイに向きがちで、互いに表情が分かりにくかったが、iPadは机の上に平らに置くので、画面から目を離して前を向くようになったことが影響していると、iPad効果を分析しています。

この話の筋は理解できますが、そもそも何のために会議室にパソコンを持ち込んで、どのような使い方をしていたのかということが納得できません。一口に会議といっても、その目的や記録のまとめ方はいろいろあります。結論を出すことを目的としない情報交換会であっても、取り上げた話題や参加者の発言の記録は大切です。

この新聞記事には「iPadの入力操作に慣れていないためか、参加者が懸命にノートをとるようになり、会議の雰囲気が引き締まった」とありますが、各自がノートを取らなくても、きちんと記録が残り、その内容をその場で確認できることが、パソコンを使うことの大きな効果です。

 パソコンを始めとする情報通信機器が普及した現在、こうしたICT環境での会議の進め方について、改めて考える必要がありそうです。

都丸敬介(201072)

なんでもマルチメディア(624):iPadの教訓

 米アップルの多機能携帯端末iPadが日本でも発売になり、大きな反響を呼んでいます。iPadは新しい形態の電子書籍端末として注目されていますが、すでに複数種類の電子書籍端末が存在しています。それなのに、なぜ日本でiPadのようなものが開発されなかったのかという議論がほとんどありません。

 

 新しいものを実現するには、こんなものが欲しいという夢、描いた夢を実現する執念、夢を実現するための支援体制、製品やシステムの実現に必要な要素技術などが必要なことを、過去の多くの事例が示しています。

 

 国際的な情報通信分野での存在感が低下している日本が、1980年代の元気を取り戻すためには、iPadのようなものがなぜ日本で出現しないのかといったことを声高に議論する必要があります。多機能携帯端末の分野には日本発の優れた技術や利用経験が多くあります。これらの資産と夢を結びつけると何を生み出せるかという議論も必要でしょう。たとえば、iPadのディスプレイを電子ペーパーで実現して、コンテンツを見るときにはポケットから取り出して広げて使うといったことがあります。

 

 iPadを手に入れるために泊り込みで並ぶエネルギーを、日本発の新製品に活かすことを、現役を引退したオールドエンジニアの一人として期待しています。

 

都丸敬介(201061)

なんでもマルチメディア(619):融合と分離

今朝(2010216日)の新聞で、2つの興味深い記事が目にとまりました。1つは日経産業新聞に掲載された「携帯電話産業が、固定通信や放送など異分野との融合による飛躍を目指し始めた」という記事です。もう1つは日本経済新聞に掲載された「テレビが見られるチューナー内蔵のパソコンの存在感が薄い」という記事です。

 

 固定電話と携帯電話の融合や通信と放送の融合といった、各種のサービス融合は目新しいことではありませんが、黎明期から発展期への移行が始まったといえるのかもしれません。携帯端末の通信量(トラフィック)を調べると、自宅でのインターネット利用が急速に増えているということです。このことは、情報通信ネットワークのサービス機能に対する新しいニーズが顕在化してきたことを意味し、これに対応するためにはネットワークの構成やサービス機能の変革が必要になることを示唆しています。

 

 パソコンの販売台数に占めるテレビ受信機能付きパソコンの割合は、2005年の40%弱をピークにして減少が続き、2009年には10%以下になったということです。こうなった最大の原因は、薄型テレビの大画面化と価格低下ですが、部屋のテレビをつけたままパソコンを使うという多くの人の行動様式も無視できません。研究開発が進んでいるIPTV(インターネットプロトコルテレビジョン)が実用になると、ノートパソコンの外付けディスプレイにテレビの画面を表示して、パソコンを操作しながらテレビを見ることができるようになります。マルチメディアの次の時代がすでに始まっているのです。

 

都丸敬介(2010216)

なんでもマルチメディア(618):電子書籍端末

先週、米アップルが発表した電子書籍端末iPadが大きな話題になりました。10年以上前から、話題になりながら書店の片隅にうずくまっていた電子書籍端末が、ようやく日の目を見ることができるようになるのかな、という感じがします。iPadの画面の動きを見ると、昨年このコラムに書いたFlib(なんでもマルチメディア(614))のページめくりの感じによく似ています。

 

 小説や絵本、マンガといった、一般の書店で売られている本のほかに、学会の論文誌のような専門的な書籍も電子出版が急増しています。これらの電子書籍はインターネット接続したパソコンで読めるので、電子書籍端末がなくても困りません。

 

 電子書籍を読んでいて、いつになったら手書きのメモを、読んでいるページに書き込めるようになるのかなということを考えます。小説にメモを書き込む人は少ないかもしれませんが、学生や研究者の多くは教科書や文献にメモを書き込んでいます。本箱の中で20年〜30年ほこりを被っていた本をめくって、自分で書いたメモに出会うと、その本を一生懸命に読んだときのことを思い出すことがあります。単に感慨にふけるだけでなく、新たな発見や思考の飛躍のきっかけになります。

 

 電子書籍端末で読んでいる本のページにメモを書き込めるようになったとして、その本をどこにどのように保管するのかということも大きな問題です。メモ書きしたページは個人的なものです。これを公開することなく、数十年後にも書いた人が簡単に見られるようにすることは、重要な研究課題といえます。

 

都丸敬介(201023)

なんでもマルチメディア(616):オールドメディアの再生

 新しい年が始まりました。明けましておめでとうございます。
 

昨年末から、LPレコードやビデオテープ、LD(レーザーディスク)の再生を始めました。半世紀以上前から気の向くままに買ってきた、これらの媒体の大部分は、ほこりを被ったままですが、ときどき、再生することがあります。ところが、LDプレイヤーやビデオデッキが古くなり、いつ動かなくなるかわからない状態になってきました。そこで、パソコンを使って、CDやDVDに中身をコピーすることにしました。

 レコードの音楽をパソコンに取り込むために、アンプの出力をパソコンのUSBポートにつなぐ「USBオーディオ・アダプター」(3,500円)と、ビデオテープやLDの映像+オーディオを取り込むために「USBビデオ・アダプター」(5,000円)を買ってきました。


 どちらも使い方は比較的簡単です。使いこなすには、いくらかのパソコンの知識が必要ですが、慣れてくると、いろいろなことができます。

 何十年ぶりに聞く懐かしい歌手の歌声や、博物館に長く保存されるような、オペラのライブ録画には引き込まれてしまします。

 オーディオ・アダプターを使うと、メールのバックグラウンドに付けても相手に迷惑をかけない程度に、音楽の長さやデータ量を調節できます。
 DVD作りにはかなりの時間がかかりそうですが、今年の楽しみが一つできました。

都丸敬介(2010年1月3日)

なんでもマルチメディア(614):電子ブック

インターネットで本を読む時代がくることは、インターネットの商用サービスが始

まった1990年代から期待されたことであり、いろいろな機器やサービスが開発されて

きました。しかし、なかなか普及が進んでいません。こうした中で、米国のアマゾ

ン・ドット・コムが日本でも発売した電子書籍端末「キンドル」が」大きな話題にな

りました。米アマゾン・ドット・コムは、さらに今年10月に、電子書籍をパソコンで

読むためのソフトウェアの無料配布を始めました。

 

 私は、アマゾン・ドット・コムのサービスではなく、Flibという電子ブックをとき

どき読んでいます。これは2007年に日本国内で始まった無料サービスです。Flib

は、小説、絵本、雑誌などがあり、小説の分野には、著作権が切れた、太宰治、芥川

龍之介、宮沢賢二、など多数の作家の作品が並んでいます。絵本にはナレーションが

付いているものもあります。

 

 Flibはフリップブックの略で、本のページをめくる感じで、書面がパソコン画面に

表示されます。非常に見やすく、長時間読んでいても疲れません。

 Flibのホームページアドレスは「http://www.flib.jp/」です。キーワード検索で

Flib」と入力しても、ホームページを開くことができます。Flibを読むためには、

FlipViewer」というプログラムが必要ですが、これは無料でダウンロードしてイン

ストールできます。

 

 時間にゆとりがあるシニア世代には推奨できます。指導をしているシニアパソコン

教室で紹介したところ、かなり好評です。

 

都丸敬介(2009.11.23) 

なんでもマルチメディア(613):ウィンドウズ7

マイクロソフト社の新しいパソコン用OSとしてウィンドウズ7が発売になりまし

た。ウィンドウズヴィスタの出来の悪さにはうんざりしていたので、ウィンドウズ7

 ホームプレミアムのアップグレード製品を使って、手元のパソコンのOSをヴィスタ

から7に変更しました。

 

 この切り替えの体験を参考までにお知らせします。

 ウィンドウズ7のインストールには約2時間かかりました。この中の約70分は、既存

の「ファイル、設定、プログラム」の情報を集めて、ヴィスタを7に切り替えた後で

復元するのにかかった時間です。以前、ウィンドウズXPをヴィスタに切り替えたとき

6時間くらいかかったことと比べると、2時間はかなり短い時間です。

 

 ウィンドウズ7に切り替えてわかったことですが、ヴィスタに付属していたWindows

メール、フォトギャラリー、ムービーメーカーといった、いくつかの重要なプログラ

ムがウィンドウズ7には含まれていません。ヴィスタを7にアップグレードするとこ

れらのプログラムが消えてしまうので、7へのアップグレードを実行するときは慎重

な対策が必要です。

 

 これらはWindows Liveというフォルダーにまとめられました。Windows Liveには、

これら3つのプログラムのほかに、Windows Live CallWindows Live Messenger

Windows Live Writerというプログラムが含まれています。Windows Liveは無償でダ

ウンロードして使えますが、ダウンロードには30分ほどかかりました。

 

 こうした機能変更の背景に見えることは、グーグルに対抗するオンライン・アプリ

ケーションサービスのユーザー獲得と動画情報配信の強化です。このことがユーザー

にどのように受け止められるのか、興味深いことです。

 

都丸敬介(2009.112)

なんでもマルチメディア(612):見えてきたクラウド・コンピューティング

インターネットの新しい利用方法として、クラウド・コンピューティングという言

葉が盛んに使われていますが、説明の多くは抽象的であり実態は「雲の中」でした。

その解釈や利用方法は多岐にわたるようですが、具体例として、SaaS(ソフトウェ

ア・アズ・ア・サービス)、PaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)、HaaS

(ハードウェア・アズ・ア・サービス)といった、大規模データセンターを利用する

サービスが始まりました。

 

 このことはインターネットの原点への回帰ともいえます。1969年にスタートしたイ

ンターネットのルーツであるARPANETは、パケット交換技術を使う、複数のコン

ピューターセンターの相互利用ネットワークです。その後、電子メールの利用が拡大

しましたが、ARPANETの通信プロトコルがIPに切り替えられて、インターネットとい

う言葉が使われるようになった1983年以降も利用方法の大きな変化は見られませんで

した。

 

 1990年代にWWWの標準技術やブラウザーが開発されて、インターネットの利用方法

の主流が変わってきました。また、ユーザー端末として使われているパソコンの機能

向上や通信回線の高速化といった利用環境の変化が急速に進みました。

 

 これらのことを背景とする、クラウド・コンピューティングの中核であるデータセ

ンターの革命的な変化は注目すべきことです。グーグルのデータセンターに収容され

ているサーバーの総数は300万台を超えているという報道があります。このような状

態に日本の産業や政策がどう対処するかということは重要な課題です。

 

都丸敬介(2009.9.28)

なんでもマルチメディア(611):拡張現実

今年(2009年)になってから、新聞や雑誌で拡張現実(AR)関係の記事が頻繁に目

につくようになりました。オーソライズされた定義は不明ですが、一般的な拡張現実

の意味は「現実の映像にコンピューターで情報を付加して合成表示することによっ

て、表現する情報を拡張すること」です。

 

 1990年代に発達した仮想現実(VR)でも現実の映像と人工的な映像の合成が行われ

ています。このためか、VRARの区別が判然としない解説も見られます。VRARの基

本的な違いは、現実情報と仮想情報の比率の差にあるという指摘があります。VRは仮

想情報の割合が支配的に大きいが、ARは現実情報が主体であるということです。

 

 ARの代表的なデモンストレーション例として、携帯電話のカメラを特定の建物に向

けると、その建物の名前や番地、入居者の名称などの情報が映像に重ねて表示される

というのがあります。専用のメガネをかけて街中の看板を見ると、看板には表示され

ていない情報が付加的に表示されるというのもあります。

 

 AR技術の応用研究がこれから広い分野で進むと思われますが、多くの人の日常生活

に密着した利便性の向上に役立つことを期待します。たとえば、家電製品の取扱説明

書を見なくても、専用メガネをかけて、操作しようとする箇所を見ると、操作方法が

わかるといったことです。家電製品ごとに付いているリモコンを、メーカーに関係な

1種類の万能的なものにする研究と技術の標準化にもAR技術を生かせるのではない

かと考えます。

 

都丸敬介(2009.9.22)