なんでもマルチメディア(485):年賀状の季節

数ヶ月前から代表を務めている、高齢者を対象とするパソコン教室で、受講者の人たちとささやかな喜びを分かち合っています。
 今年も残りが少なくなり、年賀状を準備する季節になったので、パソコンではがきの宛名を書くことを講座のテーマにしたところ、3時間で受講者全員が目標に到達しました。毎年、この時期になると年賀状作成用ソフトウェアの新製品がパソコンショップに並びます。このようなはがき作成専用のソフトウェアではなく、標準的なワープロソフトのWordを使ったのですが、結果は上々でした。
 始めてパソコンで宛名を書いたはがきを、実際に投函するようにしたところ、ここでシニアらしいほほえましい姿を見ることができました。ある人が書いた宛名は、パソコンを進呈してくれたという息子さんでした。ご主人を宛名にした人やお孫さんを宛名にした人、記念のためにと自分を宛名にした人など、それぞれの人の思いを感じ取ることができました。次回の講座では、個性的な文面を作ることをテーマにする予定です。
 受講者は7対3程度の割合で女性のほうが多いのですが、みな学習意欲が強く、好奇心が旺盛です。なかには、3時間の講義時間が終わるとぐったりして、家に帰ると学習したことをみな忘れてしまうという人もいますが、脳の刺激になるからと熱心に学習を続けています。目に見えて進歩している状況を見ているのは楽しいことです。
都丸敬介(2006.11.06)

なんでもマルチメディア(484):技術用語

専門分野の雑誌や研究論文を見ていると、かなり大きな頻度で、知らない用語に出会います。その多くはインターネットで調べても見つからない新語です。このような用語に出会うと、強い好奇心がわいてきます。
 毎週一回NHKのラジオ放送で、新語・流行語の解説をしています。この番組では「新語・流行語を知ると世の中が見えてくる」いう趣旨の決まり文句が最初にあります。このことに異論はありませんが、社会現象の窓として目にとまる新語・流行語と、専門技術分野の新語あるいは造語との間には性格の違いがあるように思います。
多くの専門用語には、それを提案した人の思想と情熱が込められています。私自身、新しく開発した技術に付けた名前が業界で広く使われるようになった経験をもっています。技術教科書や市販製品の説明書で、自分が提案した用語を眼にすると、なんとなく嬉しくなります。
 知らない用語に出会ったときは、それを手作りの用語集に収録しています。最初に出会ったときの説明ではよく理解できなかった用語でも、別の資料で見つけて整理すると次第に分かってくることがあります。多くの人が情報を提供して作っているインターネット上の百科事典のウィキペディアが話題になっていますが、技術の専門的なことになると内容が貧弱です。一方、項目によっては記載されていることが多すぎて、要点を的確に把握できないことがよくあります。
 数文字の用語でも、真意を理解することは簡単ではないことを毎日実感しています。
都丸敬介(2006.10.31)

なんでもマルチメディア(483):IP電話のトラブル

今年(2006年)9月にNTT東日本のIP電話サービスで、長時間にわたって正常な通話ができないというトラブルがありました。そして、今度はNTT西日本で似たような大規模の通話障害が発生したことが、テレビや新聞のニュースで報じられました。
 原因は分かりませんが、トラブルの根底にはかなり難しい技術的な問題があるのではないかという感じがします。電話をかけるときには、相手の電話番号をダイヤルします。従来の電話網ではこの電話番号から接続先を割り出して接続をします。
一方IP電話では、音声信号を運ぶパケットを送信者から受信者に送るのに、IP(インターネット・プロトコル)アドレスを使います。このために、電話番号とIPアドレスを対応付ける制御が必要になります。このような制御処理を1秒程度の短時間で実行するためには高性能のサーバー(コンピューター)が必要です。
 1980年代には高い完成度に達していた固定電話では、発信者がダイヤルを終わってから着信者を呼び出すまでの時間や接続失敗率など、いくつものサービス品質指標を決めて、その目標値を実現しています。公衆通信サービスとしてのIP電話サービスは、すでに実現したサービス品質と簡便な操作性を継承しなければなりません。これは簡単なことではありませんが、発生したトラブルを教訓にして、安心して利用できるサービスを実現することを願います。
 私の家では、光回線のほかに従来の固定電話回線を残しています。
都丸敬介(2006.10.24)

なんでもマルチメディア(482):ビジネス・インテリジェンス

このコラムの掲載と配布でお世話になっているBINETのBIの語源はビジネス・インテリジェンスです。最近米国で発行されたコンピューターの専門誌に「ビジネス・インテリジェンスを一層役立つようにする」という記事がありました。
 この記事によると、BIの考え方が生まれたのは1970年代であり、大量のデータを収集、蓄積および分析することによって、企業活動の意思決定に役立てることだったとあります。このことは米国のCIA(中央情報局)のネーミングと符合します。CIAのIはインフォメーションではなくインテリジェンスです。そして、収集した情報を分析して知識に変えることがCIAの本来の役割だといわれています。
 上記の記事によれば、従来のBIの欠陥は情報の分析に時間がかかりすぎることだったが、最近はBIの普及が加速しているということです。そして、このことを裏付ける、BI関連産業の収益の急速な伸びが示されています。この背景として、SOA(サービス・オリエンテッド・アーキテクチャー)と呼ばれるソフトウェア製品が良くなってきたことを指摘しています。
 最近のBIシステムでは、意思決定に役立つ情報を瞬時に絞り込んで提供することができるようになったということです。リアルタイム性と有用な情報の絞り込みは情報社会に生きるための基本です。しかし、意思決定を行うのは人です。コンピューターがはき出す情報を丸飲みにしないで、BIシステムといえどもツールだということを忘れないようにしなければなりません。
都丸敬介(2006.10.15)

なんでもマルチメディア(481):情報発信

「ニューメディア」や「テレトピア」をキーワードとする新しい情報社会の実現を目指して、日本全国が盛り上がった1980年代の合い言葉の一つが「情報発信」でした。地方都市で開かれたセミナーや研究会では、必ずといっていいほど、「地域活性化のために情報発信基地を作るのだ」ということが話題になりました。しかし、どのような情報をどのような形で発信するのか、発信する情報を地域産業にどう結びつけるのか、という具体的なことになると、話が進まなくなりました。その後、インターネットの商用サービスが始まってから、ホームページによる全国的な情報発信が本格的になりました。
 そして今、「情報発信」が新たに社会のキーワードになりました。Web2.0の具体例とされているブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)がこれです。1980年代の実らなかった「情報発信」を第一世代、1990年代のホームページによる「情報発信」を第二世代とすると、Web2.0は「情報発信」の第三世代といえます。
 ブログやSNSの情報発信者は個人が中心であり、これらが地域の活性化や産業の発展にどのように寄与するのかといったことはまだはっきりしていません。けれども、すでに多くの前例がある、幾つかのヒントがあります。
注目すべきことは、共通の関心事項について仮想空間に集まった人たちを、実空間に誘導して集める場を用意することです。ネット社会の発展に伴って、仮想空間に集まるのは得意だけれど、実空間に集まるのは不得手だという若い人たちが増えることが心配です。このような人たちに、実空間に集まることの楽しさを体得させる情報発信がWeb2.0時代の重要なテーマになります。
都丸敬介(2006.10.08)

なんでもマルチメディア(480):紅葉の季節

10月になり、本格的な紅葉の季節になりました。窓から見える木々はまだ濃い緑ですが、少しずつ色が変わり始めました。この季節になると、記憶のどこかに潜んでいる素晴らしい紅葉の体験が、つい最近のことのように浮かび上がってきます。
 昨日(2006年10月1日)、パリのロンシャン競馬場で開催された、凱旋門賞競馬レースで武豊騎手のディープインパクトが僅かな差で優勝を逃がしました。このレースが始まる前に、パリ郊外のシャンティイで仕上げの調教を行っていることが報じられていました。シャンティイはパリから鉄道で30分ばかりで行けるので、何度か行ったことがあります。駅からシャンティイ城までの、森の中を歩く道の黄葉は強く印象に残っています。道の左手には競馬場があり、立派な建物が連なっています。城の一部かと思ったその建物が厩舎だと知ったときには驚きました。
 ヨーロッパの秋は、どこに行っても紅葉ではなく黄葉です。黄葉を見た目で日本の鮮やかな紅葉を見ると、その華やかさに圧倒されます。東京で開かれた国際会議に参加したフランス人が、日光の紅葉を見て興奮していたことを思い出しました。
 北関東や東北地方ではいたるところで素晴らしい紅葉を見ることができますが、裏磐梯にある自動車専用道路の磐梯吾妻レークラインの紅葉は特に見事でした。紅葉のトンネルを走り抜けなければならないのが残念ですが、その先にも次々に素晴らしい景色が展開します。ここはもう一度行ってみたいところです。
都丸敬介(2006.10.02)

なんでもマルチメディア(479):ソフトウェア技術者の育成

景気の回復に伴って、ソフトウェア技術者不足が深刻な問題になってきたようです。この問題は決して新しいことではありません。コンピューターの導入が進み始めた1960年代後半に、ソフトウェア技術者が大量に不足する可能性が指摘され、この対策の一環として、1969年に通商産業省(当時)が情報処理技術者試験を核とする人材育成を始めました。
ところが、バブルがはじけて、ソフトウェア技術者の仕事が激減するという構造不況が起こりました。このとき大量に生じた余剰人員はCOBOLのプログラマーでした。新しい時代のソフトウェア技術者に求められるシステム設計能力や、新しいソフトウェア技術を身につけていなかった人たちが脱落したのです。
 最近のソフトウェア技術者不足の根底には、依然として、体系的な人材育成が適切に行われていないという状態があります。企業などの情報システムだけでなく、パソコンや携帯電話、家電製品などに組み込まれているソフトウェアの規模が急速に拡大すると同時に複雑になっています。
 機能が複雑で規模が大きいソフトウェアの品質と生産性を改善するために、モデル化の手法や支援ツールの開発が進んでいますが、このような手法やツールを使いこなすのは簡単なことではありません。また、基礎知識を学習しても、実際に使ってみないと身に付きません。抽象的な考え方を教えるのは学校教育であり、実践の経験を積ませるのは現場教育であるという分業制では、いつまでたってもソフトウェア技術者不足は解消できません。日本の産業を支えるソフトウェア技術者育成は正念場にあるといえます。
都丸敬介(2006.09.25)

なんでもマルチメディア(478):通信制度の変化

電気通信サービスの新時代を迎えて、通信事業者の再編成や新制度の開始など、次々に大きなニュースが飛び交っています。来月(2006年10月24日)始まる携帯電話事業者間の電話番号継続制度(ナンバー・ポータビリティー)は、準備段階が終わって、激しい顧客獲得合戦に入りました。
 今月13日に、総務省の審議会が、家庭などの電力配線を利用して高速データ伝送を行うPLC (電力線通信)の実施を答申したことが報道されました。ただし、実現されるのは屋内電力配線の利用だけであり、屋外のアクセス・ネットワークでの利用は除外されています。
 ブロードバンド・ネットワーク社会を実現するためには、高速アクセス・ネットワークが不可欠です。これを実現する技術の本命は光ファイバー・ケーブルを使うFTTHですが、総務省の懇談会が13日にまとめた報告書では、NTTに対して、光ファイバー・アクセス回線を他の事業者に開放することを義務づけることが記されたようです。
この開放義務がNTTの投資計画に影響すると、採算性が悪い地域でのFTTHの普及が遅れて、地域情報格差がなかなか埋まらない可能性が大きくなります。高速無線アクセス・ネットワークによって、この地域格差がどのように解消できるのかということが、政策と技術の両面で重要です。
このこととの関係は不明確ですが、15日に電気通信事業者協会が総務省に認可を申請した、固定電話の全国一律サービスを維持するための過疎地の赤字補填制度が、今後どのように展開するのか、目が離せなくなりました。当面の赤字補填制度は固定電話を対象としているようですが、ブロードバンド・サービスも考慮しないと、地域格差が固定する恐れがあります。
都丸敬介(2006.09.17)

なんでもマルチメディア(476):WiMAX

今年(2006年)10月24日から、日本国内で携帯電話の番号継続(ナンバー・ポータビリティー)制度が始まるということで、携帯電話各社の対応策や、この制度の影響がいろいろと取りざたされています。この制度は、電話利用者が契約している通信事業者を変更しても,従来の電話番号を継続して使えるサービスです。番号継続制度は新しいことではなく、米国では、固定電話の利用地域を変更したときの番号継続制度が、1980年代に実現しています。
 携帯電話の番号継続制度によって、かなりの数の利用者が契約している事業者を乗り換えると見られています。携帯電話事業者が多数の利用者を引きつけるには、料金の安さだけではなく、高性能のブロードバンド接続機能が重要視されています。このための技術として、WiMAX(ワイマックス)が注目されています。
WiMAXは、無線LANの技術を標準化しているIEEE(米国電気電子学会)の802.16委員会が開発している技術です。この委員会では幾つかのWiMAX技術の標準化を行っていますが、そのなかのモバイルWiMAXというIEEE802.16e規格が、第4世代携帯電話技術の本命として注目されているのです。規格上の最大伝送速度は75Mビット/秒で、最大無線通信距離は3k?5kmとなっています。
 米国では携帯電話大手のスプリント・ネクステルが全米規模のWiMAX通信網構築計画を発表しました。日本では、新たに解放される予定の、2.5GHz(ギガ・ヘルツ)帯の無線電波を使うWiMAXの検討が行われています。
都丸敬介(2006.09.03)

なんでもマルチメディア(475):イスラエルの思い出

イスラエルとヒズボラの意味がない(と思われる)戦争が、つかの間の沈静状態に入ったのはよいけれど、まだ危ない状態が続いていることに胸が痛みます。
 1988年にテルアヴィブで、コンピューター・ネットワーク技術を主題とする、大規模の国際会議が開かれました。いまから振り返ると、この時期はイスラエルが平和国家としての本格的な歩みを始めたと考えられていたときでした。会議の開会式で、主催者が「イスラエルもこのような会議を主催できるようになった」と挨拶し、ステージでハープとフルートの演奏が行われました。
 過日、ヒズボラのロケット弾が着弾した、レバノンに近い先端工業都市ハイファを訪問したときのことです。若い女性の案内者から受けた、これからの国造りの熱心な説明を今でも思い出します。沙漠を農耕地に変えるために、国のリーダーは最初に松の木の大規模な植林をしたというのです。松は荒れ地でも根がつきやすいのがその理由です。最初の植林から20年くらいたって、松の落ち葉で土地がいくらか有機質に変わると、松の代わりに樫の木を植えます。100年くらいたつと、立派な森になって、森の周囲も豊かな農耕地になるはずだという説明でした。
 テルアヴィブとハイファの間に、古代ローマ人が建設した、煉瓦積みの大きな水道の遺跡があります。ローマ人はこうした立派な設備を作ったけれども、その後で侵攻してきたトルコ人がみな破壊してしまった。だからトルコ人は大嫌いだというのです。100年単位で数える昔の出来事をつい最近のことのように話した若い世代の人たちが、その後どうなったのか気にかかります。
 イスラエルは、機会があればもう一度訪ねてみたい国です。
都丸敬介(2006.08.28)