何でもマルチメディア(674):IoTのさきがけ

 最近IoT(モノのインターネット:Internet of Things)の話題が活発になってきました。IoTの構想や実現方法の文献を見ていると、今から30年前の体験を思い出します。

 1980年代前半のある日、務めていた会社の対外窓口担当者から、「米国のベンチャー企業の社長から、画期的な構想の説明をしたいという申し入れがあるので、話を聞いてもらえないか」という電話がありました。

 説明を受けた内容は、「世界のコンピューター事業の状況を分析した結果、スーパーコンピューター、メインフレーム・コンピューター、ミニコンピューター、マイクロコンピューターのどれも事業規模(単価×出荷数)が同程度だということが分かった。そこで、1チップサイズのコンピューターを考えた。一人の人間が10個程度身につけるようになれば、莫大な生産量になる」という話でした。社長さんはこのような製品を実現するパートナーを求めて日本に来たのです。

 この提案は、時期尚早という判断で実現しなかったのですが、この時から30年たった現在のIoTの構想と見事に一致しています。1980年代の技術では、機能的にもコスト的にも実現が難しかった1チップ・コンピューターが実現できるようになった今、IoTがどのように社会に浸透するのか、大変興味があります。

(2015.01.08)

何でもマルチメディア(673):2020年のマルチメディア情報配信

 前回の東京オリンピックは、日本におけるテレビの普及拡大の推進力になり、産業界に大きな経済効果をもたらしました。今、2020年の東京オリンピックがもたらす経済効果と情報通信産業の飛躍的発展に関心が高まっています。

 日経エレクトロニクスの2014年10月12日号に掲載された、高野雅晴氏の「東京オリンピックを礎に究極の映像配信を実現」という記事は、6年後のマルチメディア情報配信の姿と、これを実現する基盤になる技術開発や法制度の改革について、よくまとまっています。

 高速インターネット、スマホ、パソコンなどが広く普及した現在では、テレビジョン受像機が爆発的に売れた前回の東京オリンピックのような、ユーザー端末機器産業の拡大はあまり期待できそうもありません。しかし、少数の放送局だけでなく、多数の個人が映像や音声解説をリアルタイムで発信する状態を考えると、情報流通基盤の整備と、情報流通制御方法の整備ために巨額の投資が必用になると考えられます。

 日経エレクトロニクスの記事では触れられていませんが、視聴者が入手できる映像や放送の情報品質の改善が大きな課題です。インターネット電話で多くの人たちが体験している、伝送遅延時間の増大と変動に起因する話にくさ、映像と音声の時間のずれなどを改善することが、新しい時代のマルチメディア情報配信には必用です。

 都丸敬介(2014年10月27日)

何でもマルチメディア(672):ブルートゥース

最近、短距離無線通信技術「ブルートゥース」を実装した製品が急速に増えています。この状態を見て思い出すことがあります。1990年代の後半に、講義を頼まれた情報通信分野の先端技術の講習会で、私が注目している技術の一つとしてブルートゥースを取り上げたことがあります。受講者の大部分はブルートゥースという言葉を初めて耳にしたようでしたが、何人かが興味をもって、講座終了後に質問にきました。このときから15年を経過した現状を見ると、生まれたばかりの時代に関心を持ったこの技術が大きく成長したのは喜ばしいことです。

 身近な製品では、パソコン本体とマウスやキーボードなどの周辺機器の間の接続、スマホ本体と周辺機器との接続などにブルートゥースを使ったものが増えていますが、パソコンやスマホ以外でも応用分野が急増しています。統計データによると、世界のブルートゥース搭載機器総数は、2012年が20億、2013年が100億ということです。

 パソコンと周辺機器との無線接続技術としては、IEEE802.15規格の無線LAN(ZigBee)や、27MHz帯の無線通信技術などもあります。どの技術を使った製品を選ぶのが良いかという見識がユーザーに求められる時代になりました。

都丸敬介 (2014.09.26)

何でもマルチメディア(671):インターネットの語源 

 ”インターネット”という言葉は、誰でも知っている言葉になりましたが、その語源についての正確な説明はほとんど見当たりません。IT関係の用語集を見ても、大部分が概念的な説明であり、インターネットという言葉が、インターネットの最大の特徴的技術である、”インターネット・プロトコル(IP)”に基づいていることの説明はありません。

 IPは、文書、音声、画像などのあらゆる種類のデータをディジタルデータとして運ぶ、電子はがき(パケット)の規定です。一つ一つのIPパケットには送信元IPアドレスとあて先IPアドレスがついています。送信元から宛先にどのようなルートを経由して届けるかということは決められていません。このような通信形態をコネクションレス型(CL)通信と呼びます。

 パケット通信の技術は1960年代に米国で生まれました。最初のパケット通信方式は、あらかじめ送信元とあて先をつないでからパケットを送るコネクション型(CO)通信でした。
 世界最初のパケット通信網は、米国国防総省の高等研究計画局(ARPA)がスポンサーになって実現したARPAネットです。このARPAネットがインターネットのルーツです。

 1つのIPパケットが運べるデータ量には制限があるので、データ量が大きいメッセージは一連の多数のIPパケットに分けて送られます。このために、宛先に届いた一連のパケットの到着順序が崩れたり、一部のパケットが宛先に届かないことがあります。こうしたトラブルを補正するためにTCP(トランスミッション・コントロール・プロトコル)が用意されています。

 TCPとIP を組み合わせたTCP/IPの技術が確立したことから、1983年にARPAネットの基幹プロトコルがTCP/IPに切り替えられ、インターネットと改名されました。そして、1980年代後半にはインターネットの世界的な普及が始まりました。

都丸敬介 (2014.07.28)

何でもマルチメディア(668):スリランカの旅(2)スリランカのお寺

私がスリランカに興味を持ったのは、2009年にインドのサーンチーにある仏教遺跡を訪れた時からです。サーンチーには、仏教の守護者として知られているアショーカ王が、紀元前3世紀に建立した大きな仏塔(ストゥーバ)があります(写真1)。この仏塔に隣接して、スリランカの仏教徒が寄進した集会所のような建物がありました。syashin(1)

 現在のスリランカの人口は約2千万人で、その7割が、北インドを先祖の地とするシンハラ人です。そして、シンハラ人の大部分が仏教徒だということです。

syashin(2)

 写真(2)はスリランカのアヌラーダプラにあるルワンウェリサーヤ大塔と呼ばれる仏塔(ダーガバ)(高さ55m)です。この仏塔の建立には、アショーカ王の王子マヒンダが関わっています。

 写真(1)と写真(2)を並べてみると、初期の仏塔の姿と、仏教がインドからスリランカに伝わった様子がよくわかります。サーンチーは遺跡として保存されていますが、ルワンウェリサーヤ大塔は美しく飾られて、多くの信者が参拝しています。

syashin(3)

 写真(3)は町の中で見かけた現代のお寺と仏像です。この様子から、現在の仏教徒の姿が感じられます。

14・1・29

何でもマルチメディア(667):スリランカの旅(1)シギリヤ・ロック

ミャンマー、タイ、インドネシアといったアジアの国々には素晴らしい仏教遺跡があります。これらの遺跡を見て回っている間に、仏教がスリランカを経由してこれらの国に伝わったことを知りました。そこでスリランカに興味を持つようになり、昨年(2013年)8月に行ってきました。

 スリランカの中央部に、文化三角地帯という、仏教遺跡を中心とする、多くの文化遺産が集まっている場所があります。その一つ、シギリヤという小さな町のジャングルの中に、シギリヤ・ロックという高さ200mの岩山(写真)があります。この岩山は古くから仏教の僧侶の修験場だった場所ですが、5世紀に、当時の王様が宮殿を建てました。

photo①

 この岩山の頂上に行くには、写真の左側の絶壁に作られた1千段の階段を登らなくてはなりません。写真は最上部の鉄製階段を上り下りしている人たちの行列です。

photo②

 写真は頂上に残っている王宮の土台です。周囲は見渡す限りの樹林帯です。今から1500年前にどのような道具や技術を使ってこの岩山の上に巨大な王宮を造ったのか、想像もできません。

photo③

 写真は岩山の中腹にあるオーバーハングした場所の壁から天井にかけて描かれている、シギリヤ・レディと呼ばれる美人画です。ジャングルの中に埋もれていた美女たちが発見されたのは19世紀後半だということです。

photo④

都丸敬介(2014120日)

なんでもマルチメディア(428):固定電話と携帯電話の融合

電気通信事業が自由化され、NTTが民営化すると同時に多くの通信事業者が生まれた1985年から20年たちました。この間に携帯電話やインターネットの急速な発展がありました。さらに、これらの影響を受けて、電話事業の新たな大転換が始まっています。
 中でも注目すべきことが固定電話と携帯電話の融合です。このことを固定・移動通信融合サービスあるいはFMCといいます。FMCはフィックスド・モバイル・コンバージェンスの略です。FMCでは1つの携帯電話機を、屋外では通常の携帯電話として使い、屋内では固定電話網につながるコードレス電話機として使います。
 FMCの効用について、家にいるときは通信料金が安い固定電話を使えるという説明があります。これは事実ですが、FMCに期待される効果は通信料金の低減だけではありません。より重要なことは、一つの電話番号を日本中どこにいても使えるようになることです。固定電話の分野ではIP電話が急速に発展しています。FMCとIP電話の結合は、さらに多くの新しいアプリケーションを生み出す可能性を持っています。
 英国のBT(ブリティッシュ・テレコム)が携帯電話のボーダフォンと提携して、ブルーフォンという名称のFMCサービスを2005年6月に開始しました。このサービスでは、屋内ではブルートゥースという近距離無線LANのアクセス・ポイントを経由して、電話機を固定電話網につなぎ、屋外ではGSM方式の携帯電話回線に同じ電話機をつなぐことで、通信料金の最適化を実現しています。
 FMCの実現では、電話番号をどうするかということが大きな問題です。先月、日本国内のFMCサービスを2007年度にも実現する方向で、総務省が固定電話番号と携帯電話番号を一本化する検討を始めるという報道がありました。この方針が決まると、大きな事業機会が生まれると考えられます。
都丸敬介(2005.10.16)