NTTドコモが「プッシュトーク」、auが「ハローメッセンジャー」のサービス名称で、新しい携帯電話サービスを始めるということです。これは、携帯電話が普及する以前に多くの人たちが利用していたトランシーバーと同様に、話者が送信するときには送話ボタンを押し、送話を終えるときは「オーバー」あるいは「終わります」などと言って送話ボタンを切る、交互通話サービスと同じようなサービスです。1対1通信だけでなく複数のユーザーで同時に通話できます。これをプッシュ・ツー・トーク(PTT)と呼びます。
米国では、1996年にネクステル・コミュニケーションズ社が「ダイレクト・コネクト」の名称でサービスを開始したという記録がありますが、あまり普及したようには見えませんでした。2003年以降に、ベライゾン・ワイヤレス、スプリントPCSなどの通信事業者が同様のサービスを始めました。異なる通信事業者のPTTサービスは互換性がないことが問題点として指摘されていましたが、2004年には、モトローラ、エリクソン、シーメンスの携帯電話機メーカー3社が、各社の携帯電話機のPTT互換性を実現する共同実験を始めたことが報じられました。
NTTドコモとauの電話機は互換性がないようですが、このサービスがどのような年代層に浸透するのか興味があります。auのサービスは音声だけでなく文字メッセージや画像も同時に送ることができるようなので、新しい若者文化が生まれるかもしれません。
都丸敬介(2005.10.29)
月: 2005年10月
なんでもマルチメディア(429):ガンダーラ美術
今日(2005年10月24日)の日本経済新聞・文化欄に、パキスタン政府が愛知万博で展示した釈迦苦行像を鎌倉の建長寺に寄贈したいきさつの記事がありました。この仏像はガンダーラ美術の代表的傑作で、パキスタンのラホール国立美術館に保管されているもののレプリカだということです。駐日パキスタン大使が書いた新聞記事の「偶像崇拝を否定するイスラムの国であるパキスタンが作った最初で最後のレプリカになるだろう」という一文に心を打たれました。
私がガンダーラ美術に出会ったのはロンドンの大英博物館です。日本の仏像や、ギリシャの古代彫刻、そしてミケランジェロの作品などになじんでいた眼に、ガンダーラの仏像群がもたらしたショックは強烈でした。美術や歴史を深く勉強してきたわけではないので、感じたことをストレートに受け取っただけですが、このときのショックが忘れられず、その後も何度か大英博物館にガンダーラの仏様を見に行きました。子供の頃から見慣れてきた柔和な仏像は癒しをもたらしてくれますが、より人間的なガンダーラの仏像は励ましを与えてくれるように思えます。
あと一ヶ月もすると鎌倉も秋の色になります。久しぶりにカメラを持って建長寺に行ってみようかなと考えています。
都丸敬介(2005.10.24)
なんでもマルチメディア(428):固定電話と携帯電話の融合
電気通信事業が自由化され、NTTが民営化すると同時に多くの通信事業者が生まれた1985年から20年たちました。この間に携帯電話やインターネットの急速な発展がありました。さらに、これらの影響を受けて、電話事業の新たな大転換が始まっています。
中でも注目すべきことが固定電話と携帯電話の融合です。このことを固定・移動通信融合サービスあるいはFMCといいます。FMCはフィックスド・モバイル・コンバージェンスの略です。FMCでは1つの携帯電話機を、屋外では通常の携帯電話として使い、屋内では固定電話網につながるコードレス電話機として使います。
FMCの効用について、家にいるときは通信料金が安い固定電話を使えるという説明があります。これは事実ですが、FMCに期待される効果は通信料金の低減だけではありません。より重要なことは、一つの電話番号を日本中どこにいても使えるようになることです。固定電話の分野ではIP電話が急速に発展しています。FMCとIP電話の結合は、さらに多くの新しいアプリケーションを生み出す可能性を持っています。
英国のBT(ブリティッシュ・テレコム)が携帯電話のボーダフォンと提携して、ブルーフォンという名称のFMCサービスを2005年6月に開始しました。このサービスでは、屋内ではブルートゥースという近距離無線LANのアクセス・ポイントを経由して、電話機を固定電話網につなぎ、屋外ではGSM方式の携帯電話回線に同じ電話機をつなぐことで、通信料金の最適化を実現しています。
FMCの実現では、電話番号をどうするかということが大きな問題です。先月、日本国内のFMCサービスを2007年度にも実現する方向で、総務省が固定電話番号と携帯電話番号を一本化する検討を始めるという報道がありました。この方針が決まると、大きな事業機会が生まれると考えられます。
都丸敬介(2005.10.16)
なんでもマルチメディア(427):技術の目利き
なんでも鑑定団というテレビ番組を見ていて、鑑定人の知識とよく勉強していることに、いつも感心しています。以前、時代小説の中で、茶道具などの目利きを育成するのに、徹底的に良い物だけを見せるという場面を読んだ記憶があります。そうすると、直感的に本物と偽物を見分ける能力が身に付くというのです。こうした能力に加えて、鑑定人は、本物と偽物あるいは良い物と悪い物を見分けた理由を、客観的に説明しなければなりません。
私は何年か前に、技術の目利きの仕事を手伝ってもらえないかという依頼を受けたことがあります。その場で辞退したので、その後どうなったか知りませんが、この話とは関係がないところで、技術の目利きに取り組んでいるという話を最近続けて聞きました。進歩が早く競争が激しいIT分野では、製品を使う側も提供する側も、適切な選択判断ができる技術の目利きを求めているようです。
技術の目利きには、実際に技術開発あるいは製品開発に携わった経験が必要です。文献から得た知識だけでは、理屈は分かっても、大きさや性能あるいはコストなどを総合的にとらえたバランスの取れた判断は困難です。どのような技術あるいは製品も、それが効果的に能力を発揮できる条件あるいは限界があります。同じものでも、適用条件によって判断の結果が異なることがよくあります。
このことが当てはまるのは、技術や製品の目利きだけではありません。多くの技術的な解析や社会現象の分析でコンピューター・シミュレーションが使われていますが、シミュレーション・モデルが成り立つ条件の範囲を逸脱したために生じたおかしなデータを、気づかずにそのまま発表した事例を目にすることがあります。このようなときは常識を疑いたくなります。しかし一方では、おかしなデータが生じた原因の分析が、新たな発見につながることがあります。技術の目利きは案外面白い世界かもしれません。
都丸敬介(2005.10.10)
なんでもマルチメディア(426):カナダの紅葉
カナダの紅葉の名所ローレンシャン高原で、小型遊覧飛行機が墜落して日本人観光客が死亡するという痛ましい事故が起こりました。大きな楽しみが突然の死に暗転した人たちのことを思うと言葉がありません。私も3年前の今頃、ローレンシャン高原に紅葉を見に行ったことがあるので、今度の事故に無関心ではいられません。
ローレンシャン高原はモントリオールとオタワのどちらから行っても、車で2時間はかからない広大な場所です。ガイドブックには「モントリオールの北西50kmら150kmの一帯に広がる丘陵地帯」という説明があります。私はモントリオールから車で出かけて、小さな町を見たり、湖を一周する観光船に乗ったりしながら、スキー場があるトランブランという場所まで行きました。道路の両側は見渡す限り一軒の家もなく、色づいた森や山が延々と続きます。カナダの国旗になっているカナディアン・メープルの紅葉を期待していたのですが、圧倒的に多いのは黄葉でした。それでもトランブラン・リゾートの中を歩いていると、見事な紅葉に出会うことができました。
現役時代、紅葉の時期にオタワで開かれた、日本とカナダの2国間技術交流会に参加したことがあります。このとき、オタワにある国会議事堂の庭に植えられている何本ものメープルが見事に紅葉していました。この議事堂の脇を流れているオタワ川の岸には、小型水上機を係留する木製の台が点在しています。広大な森と湖の国カナダでは、多くの人が自家用の小型水上機を自動車のように利用しています。
このような国で起こった遊覧飛行機の墜落は信じがたいことですが、徹底した事故原因の解明が必要です。日本の新聞も、事故発生の報道だけでなく、解明された事故原因を詳しく解説してほしいと思います。
都丸敬介(2005.10.02)