「固定電話と携帯電話を比べて、どちらの音が良いと感じているか」という質問をすると、答えが分かれます。両者の技術を比較すると、原理的には携帯電話のほうが、音声品質が劣ることになっていて、多くの研究論文のデータもこのことを裏付けています。
ところが、携帯電話ネットワークの通信速度を従来のままのナローバンド(狭帯域)にしておいて、受信側で音声を復元するときに、ブロードバンド(広帯域)に変換して音声品質を改善する技術の研究が進んできました。こうなると、従来の固定電話よりも携帯電話のほうが音声品質が良い、ということが原理的に正しくなります。
このことが、伝統的な固定電話の音声品質改善のきっかけになるかもしれません。ISDNが実用になった1980年代に、通信速度が64kビット/秒のISDN回線を使って、ラジオ放送なみの音声品質を実現する技術が開発されて、国際標準になっていたのですが、ほとんど利用されていません。しかし、この技術は、ブロードバンドIPネットワークを利用するIP電話の標準技術として活用できます。
近い将来、音声品質の良さを前面に出した、新しい電話サービス合戦が始まる予感がします。ただし、幾つか気になることもあります。技術的なことでは、通信事業者のサービスや機器メーカーの製品の間の相互接続性の保証が重要です。このために、新しい国際的な主導権争いが活発になる可能性があり、日本がそのリーダーになれるかどうかということが、産業や経済に大きく影響します。この分野の技術は難しいだけに、分かり易く説明して、関連産業だけでなく、一般ユーザーの関心を高めるためのキャンペーンが大切です。
日本の産業が取り残されないことを祈ります。
都丸敬介(2006.07.31)
月: 2006年7月
なんでもマルチメディア(468):許容待ち時間の感覚
最近サービスが始まったワンセグ放送は、映像情報のほかにいろいろな文字情報が見られるということがセールスポイントの一つになっていますが、文字情報が表示されるまでの待ち時間の長さが、利用者をいらだたせているという報道がありました。問題になっている時間の長さは20秒?30秒程度のようです。
以前、このコラムでも書いたことがありますが、インターネットのホームページ画面が出始めてから出終わるまでの許容時間に「8秒ルール」という経験則があります。そして、8秒では長すぎるから、3秒を目標にすべきだという議論があります。
情報通信機器の機能が高度化するにつれて、いろいろな場所で発生するデータ処理に時間がかかり、ユーザーが体感する待ち時間が大きくなる傾向があります。この結果サービス品質が劣化します。このことについて、システム設計者やサービス提供者が、真剣に目標値を設定してその実現に努力しているのかどうか、首をかしげたくなることが増えています。
通信サービスの分野では、ブロードバンド・ネットワークの研究が盛んになった1990年代前半から、QoS(クォリティ・オブ・サービス)を合い言葉にして、良好なサービス品質を実現するための努力が払われています。しかし、現在の情報通信サービス全体を見ると、QoSに対する取り組みは不十分です。寛大なユーザーが我慢しているのをいいことに、厳しいサービス品質目標の設定と、その実現の努力を怠っていると、いつかは厳しい反発が起こります。ワンセグ放送で発生した問題はその一つです。
都丸敬介(2006.07.11)
なんでもマルチメディア(467):ブロードバンドのエネルギー消費
ADSLやFTTHといった、ブロードバンド・ネットワーク・サービスの利用者が、日本国内だけで、すでに二千万世帯に達したということです。これは新しい情報化時代を象徴する一つの指標として好ましいことと言えますが、このことがもたらす負の問題はあまり議論されていません。
ブロードバンド・ネットワークの普及に伴って増えてきた負の社会問題として、知的所有権侵害や個人情報漏洩がありますが、エネルギー消費の増大はほとんど注目されていません。
古典的な電話では、電話機を使っている間だけ、電話機が数ワットの電力を消費しましたが、ブロードバンド・ネットワーク機器は、常になにがしかの電力を消費しています。消費電力量はネットワーク設備の実現技術によって異なるので、実態を把握するのが難しいかもしれませんが、一世帯当たり10ワットを消費すると仮定すると、二千万世帯では二億ワット(200メガ・ワット)になります。これは原子力発電所一基の発電量のおよそ四分の一に相当します。現在市販されている標準的なノート型パソコンの仕様を見ると、動作時の消費電力が40ワット程度ですから、ブロードバンド利用者一世帯当たりの消費電力はかなり大きいはずです。
通信事業者はネットワーク設備の消費電力を減らすための研究に力を入れていますが、いろいろな難問題があるようです。ブロードバンド・サービスの評価指標の一つとして、消費電力をもっと強調すべきだと考えます。
都丸敬介(2006.07.02)