なんでもマルチメディア(446):産業スパイ小説

産業スパイが活躍する小説はいろいろありますが、技術面では荒唐無稽で、非現実的な内容が少なくありません。最近読んだ、ジョゼフ・フィンダー著「侵入社員」(新潮文庫)は、2004年に出版された、米国の情報機器メーカーを舞台にした産業スパイ小説で、IT製品開発やセキュリティー技術を中心に、産業スパイの小道具がしっかり描かれています。
技術用語は一般読者には分かりにくいかもしれませんが、IT関係者にはかえって現実感を与える効果があるようです。著者が記した巻末の謝辞に「アメリカのハイテク産業で見たものはわたしの想像をはるかに絶したものだった」という一文があります。そして、企業の保安や情報管理について、幾人もの専門家から話を聞いていることが述べられています。こうして得た知見が見事にストーリーの中に活かされています。
物語は、先端的IT企業のはみ出し社員が、特訓を受けてライバル企業にスパイとして送り込まれることから始まります。結果的には二重スパイになり、転職先で高給を保証されるようになったけれども、最後は新しい道を探し始めます。読み終わったとき、なぜか「現代の西部劇」という印象が残りました。極めて米国的な良質のエンターテイメント作品です。
 時間をたっぷり手にしたオールド・エンジニアにとって、読書は大いなる楽しみです。産業スパイ小説の情報をお知らせ頂けると幸いです。
都丸敬介(2006.02.19)

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