しばらく前から、日本の携帯電話産業のガラパゴス化という言葉が使われるように
なり、テレビや新聞でも取り上げられています。南米大陸から900km離れた太平洋上
のガラパゴス群島で独自の進化をとげてきた固有種動物が絶滅の危機に瀕しているこ
とにたとえて、日本の携帯電話産業が、国際的な市場で北欧や韓国のメーカーに負け
ている原因が、日本国内独自の規格や技術にあると指摘しているのです。
このような状態が続くと、日本の携帯電話産業は絶滅の危機を迎えるという警告な
のでしょうが、先端技術産業の進歩とガラパゴス諸島の動物の進化は明らかに違いま
す。最近見たテレビ番組の中で、「ヨーロッパではどの国に行っても同じ携帯電話機
を使って通信ができるのに、日本にくると使えないと」いう事例を引用して、ガラパ
ゴス化現象を説明していました。限られた時間のなかでの解説としてはやむを得ない
ことかもしれませんが、この説明は誤解を招く内容です。
規格が異なる方式の情報通信システム間の相互接続は、100年以上も前からある問
題であり、この問題を解決する基本的な手段として技術の国際標準化が行われてきま
した。初期の国際標準化活動の目標は単一規格の制定でしたが、1990年代以降は複数
の規格の間の相互接続技術が急速に進歩しました。携帯電話のような先端的な技術分
野では、もはやガラパゴス化現象による製品あるいはシステムの絶滅は考えられませ
ん。これからも日本の企業は世界をリードする気概をもって先端的な技術の開発に取
り組むことを期待します。
都丸敬介(2008.10.7)